2007年の勉強会一覧(敬称略)




第175回(第20回 筑豊感染症懇話会)12/12 '07
「予防接種の最新事情ーHibワクチンを中心にー」福岡市立西部療育センター長 宮崎千明 

○Hib(インフルエンザ菌b型)ワクチン

  • 2008年春より接種可能となる。蛋白結合型のワクチン(輸入Hibワクチン;ActHIB)で極めて劇的な効果が期待される。任意接種で開始し、DPTと同日接種で施行される見通しである。費用対効果も、1回7000円で計4回接種すると年間82億円の経費削減が可能と予測される。このHibと肺炎球菌を制圧すれば、化膿性髄膜炎の8割は克服できると言われている。

○麻疹

  •  2007年12月、麻疹排除に向けた厚生労働省の告示がなされ、「2012年までの5年間にわが国の麻疹を排除する」という目標を打ち立てた。このキャッチアップキャンペーンの目的は、これまで麻疹ワクチンの接種回数が1回のみであった者に対して、MR(麻疹・風疹混合)ワクチンの追加接種を行うことである。2008年4月より中学校1年と高校3年生の年齢の者に接種することとした。これは5年間限りの時限措置として、予防接種法で執り行われる。集団接種も可能で、保護者同伴用件も緩和される。95%以上の予防接種率達成を目標としており、また麻疹発生時は迅速対応かつ全数報告とした。

○予防接種戦略

  • 日本の予防接種は、欧米に比べ、ワクチンの種類や接種法(種々のワクチンの組み合わせ、多価ワクチン)も驚く程立ち遅れている。
  • 制圧(Control:疾患と死亡を減少)から、排除(Elimination:地域から疾病を排除)、そして根絶(Eradication:地球上から病原体を根絶)に向けた予防接種戦略というグローバルな視点からの発想が、今回のHibワクチンの導入や麻疹ワクチンのキャッチアップキャンペーンを契機に、日本でもようやく緒に就いた。

第174回  11/15 '07
「医学教育としての小児救急トリアージ」
北九州市立病院八幡病院 小児救急センター部長 神園淳司 

医療には、医学的な知識や技量もさることながら、患者や他のスタッフとのコミュニケーション能力が要求される。医学教育としてのコミュニケーション能力、いわゆる“社会力”を研修医に対し、どのように教育していくべきかを話された。社会力とは、相手を意識して選択的に行為し、また相手の行為を受けて意図的に行為する、そして互いに共有できる“言語”を利用することである。社会力を構成する基礎能力として、他者を認識する能力(他人の社会的位置の理解、他人の立場に立てる)や他者への共感能力・感情移入能力(常に他人に関心を持ち心にかける)が必要である。また臨床力とは相対化能力のことであり、今の自分(行動と言動)を他人の目(視線・社会)で見直してみる能力のことである。社会力の衰弱は、すなわち臨床力の衰弱であり、他者への関心、愛着、信頼感の低下や社会的凝集力の低下は、ひいてはチーム医療の崩壊を来し、医局制度の崩壊をもたらす。どんな役割を期待されているかが不明であり、存在価値の意識の低下が基盤にある。社会力を磨くということは、医師、看護師その他のコメディカルとの関係、患者を取り巻く家族、学校、友人との関係のなかで、何が大事であるか、トリアージする能力を磨くことにも繋がっている。
 

一般演題「乳幼児喘息について」社会保険田川病院 小児科医長 谷秀和先生

 
第173回(第17回筑豊周産期懇話会)11/9 '07
「筑豊地区周産期医療ネットワーク」
シンポジウム

 

「総合周産期母子医療センターの立場から」 北九州市立医療センター 産婦人科主任部長 高島 健先生
「地域周産期母子医療センターの立場から」 飯塚病院産婦人科医長  麻生 麻木先生
「一般病院の立場から」 田川市立病院 産婦人科医長 福田 雅史先生
「開業医の立場から」 すどうクリニック 院長 須藤 賢次先生
「行政の立場から」 福岡県保健福祉部子育て支援課母子保健係 飯田 博文氏 

第17回筑豊周産期懇話会(第173回筑豊小児科医会)のシンポジウムより、福岡県の高度周産期医療体制の現状をお知らせします。 

 
【基本データ】

1. 県内出生数(平成18年)

全体 45,304人(2500g未満 4,567人 1500g未満 367人)
 
県内死亡率(平成18年、出生1000対)
新生児死亡率1.0人(全国1.3で6位)、乳児死亡率2.0(全国2.6で4位)、周産期死亡率3.9(全国4.7で6位)
 
県内産婦人科および小児科医師数
産婦人科医:439人(H16年) 10年前のH6年は500人
小児科医: 700人(H16年) 10年前のH6年は608人
 
県内の産科および小児科の診療所数
診療所数:産 科 200施設(H17年) H5年時は240施設
     小児科 862施設(H17年) H5年時は996施設
病院数:産 科  45施設(H17年) H5年時は 67施設
    小児科 108施設(H17年) H5年時は147施設

*H5年→H17年にかけて産科病院数は33%の減少、小児科は27%の減少

 
県内の病床整備率(平成17年、出生10万対)
NICU:26.3床(全国平均は22.0床)
MFICU 9.9床(全国平均は4.5床)
 
【本県の高度周産期医療体制】
母子保健法20条の2の「周産期医療システム整備指針」に基づき、下記施設の体制整備を実施している。
総合周産期センター(4箇所)

  • 北九州医療センター、福岡大学病院、久留米大学病院、聖マリア病院

地域周産期センター(3箇所)

  • 飯塚病院、福岡徳洲会病院、九州医療センター

上記以外の高度周産期専門医療施設

  • 九州厚生年金病院、産業医科大学病院、国立小倉病院、福岡こども病院

上記の周産期専門施設で、NICUが129床、MFICUが34床あり。
平成19年11月より、高度周産期ホットライン事業が運用開始となった。この事業は、ある高度周産期医療機関が受入要請に対応困難な場合、代表電話でなく「専用PHS」により他の受入医療機関との連絡を確保(当面8機関に設置)するもので、高度な周産期救急医療専用としており、ドクターtoドクターの対応で、高度周産期医療機関内のクローズドなネットワークである。

 
【本県の産科救急の現状と課題】
消防搬送調査結果(H16-18年の2年間の産科・周産期搬送)
○件数:4,272件(全搬送60万件の0.7%)
○最初の照会先で受け入れられなかった件数 160件(4%)
 5回以上受入拒否 4件(最高で13回) 
 受入拒否の理由は、医師不在(19%)、処置困難(14%)、ベット満床(13%)
 
周産期センターの緊急搬送(母体・新生児)の状況
総合および地域周産期センター7施設全体で、年間約1100件(母体搬送約600件、新生児搬送約500件)。依頼元は、診療所80%、病院12%。救急隊3%。搬送内容は、切迫早産31%、前期破水19%、妊娠高血圧症候群(以前の妊娠中毒症)10%、胎児機能不全6%など。最初に受入要請を受けた医療機関の受入は約60%程度。受入困難理由は、NICU満床47%、産科病床満床40%、急患対応中16%(60%は、休日夜間に集中)

*母体および新生児搬送の課題として、受入医療機関の確保に時間がかかる場合があり、休日夜間を中心に自院受入率が低い、NICUの不足等が挙げられる。根本的な課題は、厳しい勤務条件、訴訟圧力等による産科医と小児科医の医師不足が挙げられる。

 
 
【高度周産期医療体制の整備に向けての課題】

  1. 周産期センター(4つの総合と3つの地域)の体制強化
  2. 高度医療機関同士のネットワークの強化
    1. ホットラインの整備、空床情報共有化の充実、高度周産期医療機関が一堂に会する協議会を開催
  3. 機能分担と連携の強化
    1.   かかりつけ医の普及と2次病院の確保
  4. 勤務環境の改善
    1.   診療報酬改訂の要望、職場復帰研修、勤務時間の弾力化、院内託児所の充実等を積極的に行っていく。

 

第172回 10/18 '07
「乳幼児喘息の治療について」
国立病院機構福岡病院 診療部長 小田嶋 博 

喘息の有症率は、10年間で1.4倍、20年間では2倍に増加している。しかも発症年齢は低年齢化しており、乳児喘息は学童・思春期の喘息に比べ増加傾向にある。喘息の初発発作の時、本当に喘息なのか、気道異物や腫瘍等の圧迫による気道閉塞の鑑別が大事である。テオフィリンに関しては、適正使用の勧告があるが、けいれん性疾患の時、発熱時・ウイルス感染の時は使用しない、抗ヒスタミン剤との併用には注意すべし。市販の鎮咳去痰剤(OTC薬)には、テオフィリン、カフェインが混入している薬剤が多く、中枢神経刺激作用が増強しやすいので注意が必要である。吸入ステロイドに関しては、早期介入の意義が強調されたが、吸入の仕方や吸入速度が臨床的に影響されやすい。最近発売されたネブライザー吸入によるブデソニド吸入用懸濁剤(パルミコート吸入)も臨床的有用性が高い。
 
Q.コンプライアンス、アドヒアランスの悪い患者への対応をどうすればよいか? 
A.乳幼児期は治療の主役は、“保護者”であるものの、学童・思春期になるにつれ、本人任せになる。この年代では、自我の目覚めの強い子、自分で考えて行動する子どもの方が、コンプライアンスが高い。反抗期のある子ども程予後もよい。なぜなら、自分の病気を自覚して、自分で治そうとする姿勢を持ち合わせているからである。親が何かにつけ、過保護、過干渉では、子どもの自立が立ち遅れるだけでなく、病気そのものも改善が遅れる。
 
Q.最近薬物療法の進歩により、喘息が大幅にコントロールできるようになったが、喘息に対する鍛錬療法の意義は?
A.トレーニングによりアドレナリンが適切に分泌し、サイクリックAMPやβリセプターが活性化され、局所免疫、抗炎症効果があがり、喘息の改善にもつながる。薬だけに頼るのではなく、やはりトレーニングとしての運動は大事。

 
第171回  9/21 '07
「小児の冬季急性呼吸器感染症」
医療法人慈恵会 中村病院 小児科 武内可尚

小児の冬季急性呼吸器感染症として、特にRSウイルス感染症を中心に講演されました。RSウイルスには、2歳までにほぼ100%罹患し、しかも何度でも感染する。12月が流行のピークで、1月になるとインフルエンザの流行に押されて、なりを潜め、春先に再流行する。0歳時の乳児が、最もハイリスクである。
 RSウイルスの分離と迅速診断キットは、鼻の奥を擦過することで分離および抗原検出が可能である。臨床像は、無熱性の肺炎、細気管支炎から無呼吸を起こすことがある。乳児で呼吸数が60回以上あるものは、入院が必要。発熱の有無は、重症度のリスクにはなりえない。流行期には、院内感染も問題となり、医療従事者の“手”から感染することが多い(部屋回りを何度もする熱心な主治医ほど感染を拡大しやすい)ため、手洗いが一番効果がある。
 RSウイルス感染の予防としては、未熟児にシナジス(一般名;パリビスマブ)が有効であるが、なぜ未熟児がハイリスクかというと、母親から経胎盤性に移行した中和抗体(IgG)が低濃度であることに起因する。シナジスは、このRSウイルスのモノクローナル抗体である。合併症としては、気管支喘息や過敏性肺臓炎が知られているが、気道上皮のリモデリングを形成しやすいことによる。治療として、RSウイルスの初感染時には、ロイコトリエン拮抗薬を投与すると効果がある。
 
 RSウイルス感染症以外の代表的呼吸器感染症のポイントを示す。

  • ○ ライノウイルスは、現在約110種以上の血清型があるが、非常にありふれたウイルスで、春と秋の普通感冒の代表ウイルスで、喘息発作を誘発しやすい。
  • ○ クラミジアトラコマティスは、産道感染で起こり、無熱性肺炎を来す。
  • ○ 百日咳の初感染は、DPTを打っていても感染するケースが多くなっている。成人の再感染例が最近多くなってきているが、血液検査上は、白血球増多のないものが多く、マクロライドが著効する。
  • ○ 5月から6月にかけては、パラインフルエンザが必ず流行する。しかも何度でもかかる。
  • ○ プール熱の病原体は、アデノウイルス3型が主体で、温水プールの普及もあり、プールを介して、年中の流行あり。塩素消毒が有効だが、カルキ嗅がバリバリあるプールの方が、アデノ感染は防げる。咽頭結膜熱の6割は、アデノ3型。アデノ7型は重症肺炎(ARDS)を来しやすい。
  • ○ 扁桃に滲出物を来す代表的病原体は、アデノ、溶連菌、EBウイルスの3つをまず念頭に置く。アデノののどは、汚い赤さで、咽頭後壁のリンパ濾胞がグリグリしているのが特徴。溶連菌は、口蓋垂を中心に燃えるような赤さが特徴で、軟口蓋の点状紅斑も診断の根拠。苺舌は数週間持続する。溶連菌は8月は流行しないのが特徴。EBウイルス感染症の場合は、約5%に非特異的な発疹が出るのが特徴。
  • ○ エンテロウイルスは、便と共に排泄される。幼稚園や保育園といった集団生活の場は、ウンチで汚染されており、園児たちは、ウンチを食べ歩いている状況。糞口感染が主体。
  • ○ 市販されている総合感冒薬(PL顆粒など)は、サリチル酸製剤が含まれており、ライ症候群の可能性あり。これらのカゼ薬は使用すべからず。

以上RSウイルスとその他、小児の代表的な病原体のポイントを説明したが、感染症の病原診断は流行疫学が絶対的に重要であることを力説された。

 
第170回(第19回筑豊感染症懇話会) 7/20 '07
「感染症診療のロジック」
静岡がんセンター  大曲貴夫 

 抗菌剤の適正使用のためには、各個人が感染症を正しく診ること、地域・医療機関の感染症診療のレベルを上げるという、個人と全体における取り組みが必要で、そのためには、下記に示す5つの『ロジック』を理解し、それを入念に検証していくことである。

1. 患者背景の理解
患者の生活歴、既往歴、周囲の感染状況を知ることは、感染症診療の基本。基礎疾患の有無、手術歴の有無、予防接種歴など問診情報を検証する。
2. どの臓器の感染か? 患者背景を理解したら、どの臓器の感染か、フォーカスを探る、推測することが大事。各種細菌培養も大事だが、特に呼吸器感染を疑う場合は、喀痰のグラム染色も診断に有力。
3. 原因となる微生物は? フォーカスが定まれば、原因微生物も自ずから推定できる。患者情報から患者の免疫力を考慮し、市中感染菌か、院内感染菌かを推定すべし。
4. 抗菌薬の選択 原因微生物を推定できれば、培養結果の判定前に、Empiric therapyを開始する。さらに起炎菌が判明したら、Definitive therapyに。この際、大事なことは、BroadよりNarrowな抗菌剤を使うべし。Definitive therapyの基本は、De-escalation(Broad→Narrow)の考え方、すなわち何でもかんでもやみくもに、大砲を使うのではなく、的を絞ることが大事で、耐性菌を作らない、作らせないための取り組みが必要。
5. 適切な経過観察 感染症のNatural courseを理解すべし。抗菌剤の効果は、72時間(3日間)は待つべきで、2日経っても改善しないからといってあせらない。また培養結果からも抗菌薬の選択が妥当であったにもかかわらず、臨床症状が改善しない場合は、薬剤が効かないのではなく、膿瘍形成等がある可能性もあり、外科的な処置が必要と心得るべし。

抗菌剤の適正使用に関しては、最大限の効果(Maximal efficacy)、最小限の副作用(Minimal toxicity)、最小限の耐性獲得(Minimal development of resistance)の3要素が必要で、感染症をきちんと診るためには、個人レベルのボトムアップと病院・地域ぐるみの感染症診療の“文化”作りが不可欠である。

 
第169回(第16回筑豊周産期懇話会)6/21 '07
「Consensus2005に基づく新生児心肺蘇生法」
久留米大学小児科 藤野 浩 

 心肺蘇生法の国際的標準法であるConsensus 2005に基づき、今回は特に、心マッサージとマスク&バッグの呼吸管理の2点を力説されました。
 心マッサージは、胸骨下3分の1の場所を、サム法(胸郭を両手で包み込み、両親指2本を使う方法)とツーフィンガー法(片手の指2本、主に中指と薬指を使う方法)で、リズム良く、真っ直ぐ圧迫する。3:1(胸骨圧迫3回、換気1回)の割合で行う。1、2、3、バッグとリズミカルに蘇生しながら、30秒毎に心拍と呼吸を評価することが重要で、やりっぱなしでは駄目。胸骨圧迫は、完全に心停止(心拍数0)の状態で開始するのではなく、心拍数60未満であれば、躊躇せずに、早めに行うことが大事である。
 マスク&バッグの呼吸管理は、気管内挿管を試みようとする前に、必ず試みるべき処置である。新生児の口・鼻にフィットしたマスクとジャクソンリースまたはアンビューバッグで陽圧換気を行う。新生児心肺蘇生のアルゴリズムで重要なポイントは、30秒毎に心拍を評価しながら、心拍数が60未満の際はさらにステップを進め、心拍数60以上あれば、胸骨圧迫を止めてよい。心拍数100以上あれば陽圧換気を止めてよい。Consensus2005では、心拍再開が15分以上経っても認められない場合は、蘇生を中止してもよい、としている。
 その他、心肺蘇生薬であるエピネフリン(アドレナリン)の使用量は、10倍希釈量を0.1ml〜0.3ml/kgを経臍静脈投与。挿管チューブは、“体重(kg)+6cm”で固定。出生直後の吸引は、口腔内を最初に、次に鼻腔を吸引すべし。胎便吸引があり、元気のいい時は、大口径(12〜14Fr)のサクションチューブで口腔内を吸引。元気なく、ぐったりしている時は、一度気管内挿管して、気管内を吸引し、胎便を除去した方がよい。挿管時は、呼気二酸化炭素検知器の設定も重要。

第168回 5/17 '07
「尿路感染症(UTI)に関わる小児泌尿器疾患」
飯塚病院泌尿器科部長 中島雄一 

 腎尿路系の器質性病変(膀胱尿管逆流、水腎症の他、異所開口尿管、異所性尿管瘤、先天性膀胱憩室、後部尿道弁、尿道憩室、尿道リングなど)に伴う尿路感染症の豊富な症例を画像付きで紹介。男児では、排尿時にバルーニングのみられる真性包茎では、下部尿路通過障害に伴うUTIを来たしやすい。洋式トイレで、両足を閉じたまま排尿する女児では、尿が腟内に逆流し、UTIを起すことがあるため、洋式トイレでの排尿指導の必要性を説明された。
 UTIの診断としては、検尿および尿培養は重要で、採尿方法としては中間尿(特に男児)やカテーテル採尿がより診断に確実。画像診断としては、超音波検査では、初回UTIでも腎臓、膀胱の形態はしっかり把握すべきで、カラードップラーでは、膀胱尿管逆流(VUR)の診断も可能である。排尿時膀胱尿道造影(VCUG)は、上部UTIを疑った場合は、初回でも検査したほうがよい。VCUG検査の時期は、尿所見が正常化してすぐがよい。RI検査は、DMSAにて腎機能、瘢痕の有無を確認するのが目的で、UTIが治癒してから、3〜6ヶ月後が望ましい。その他、最終診断として膀胱鏡があるが、飯塚病院でも小児用膀胱鏡が新しく導入され、小児への対応が可能となった。
 最近は、高度VURがあっても、内科的に経過をみることが多くなったものの、?度以上のVURがあり、DMSAで腎の瘢痕があれば、手術適応あり。またVURに対する抗生剤の予防投与としては、バクタないしケフラールを、VURの程度に応じて3〜6ヶ月間程度持続内服を推奨。 

第167回 4/19 '07
「腸管出血性大腸菌O157感染症において、急性脳症をどのように予測し、早期発見するか」
九州大学大学院細菌学分野講師 藤井 潤 

 1996年大阪堺で起こった世界最大規模の集団感染事例が先生のO157研究の原点。死亡例はHUS(溶血性尿毒症症候群)ではなく、脳症で死亡した。O157のベロ毒素が脳症発生にどのように関与するかを動物実験モデルで詳しく説明された。
 O157感染でおよそ10%がHUSを合併し、約1%が脳症で死亡。HUSの急性腎不全は透析で回復可能であるが、脳症の場合は対症療法が中心。脳症(けいれん、意識障害)は、HUS発症前もあれば、発症後数週間してから起こることもある。脳症のメカニズムは、ベロ毒素そのものによる、血液脳関門の破壊や血管内皮細胞への直接侵襲が考えられる。HUS発症の指標として、白血球数、低蛋白血症、ALTの上昇、Crの急上昇などがリスクファクターに。疫学的には、脳症の死亡例は、女性に多いことが示唆された。
 O157、ベロ毒素の迅速診断は、感度特異度共に低く診断の中てにはならない。3類感染症としての行政への届け出義務はあるものの、ベロ毒素陽性でなければ行政は動かず。抗生剤の初期投与(ホスミシン、ニューキノロン)の有用性は高い。脳症の時は、MRIの評価が重要であること、などを強調された。 

第166回 3/8 '07
「アトピー性皮膚炎とかゆみ」
産業医科大学皮膚科教授 戸倉新樹 

 アトピーの基本病態は、“湿疹”であり、皮膚バリア異常(非アレルギー機序)と免疫学的異常(アレルギー機序)の両面から考えていくことが大事であると強調。T細胞のTh1細胞とTh2細胞のアンバランス(衛生環境仮説)が、アトピーでも重要視され、アレルギー疾患では、Th2が優位の疾患である。近年アレルギー疾患が増大傾向の理由として、感染の機会が減り、エンドトキシンにさらされない、抗菌グッズの使用等で、Th2優位に傾きやすい。アトピーの治療に関しては、バリア異常(乾燥肌)には保湿剤を、アレルギー(免疫異常)には、ステロイド外用薬や免疫抑制剤の使用を考慮すべきで、皮膚科医の間では、NSAIDS(アンダーム軟膏など)の塗り薬は、使わない方向になってきているという。

第165回(第15回筑豊周産期懇話会)
2/14 '07 

「飯塚病院周産期センターにおける臨床心理士の役割について」

  • 飯塚病院 臨床心理士 鬼塚 朋子

「菜の花助産院の1年と今後の展望」

  • 菜の花助産院 助産師 稲富 博美

「妊娠中に急性膵炎を発症し耐糖能が悪化した1例」

  • 田川市立病院 産婦人科 濱口 大輔

「出血性脳梗塞を起した双胎妊娠の1例」

  • 社会保険田川病院 産婦人科医長 村岡 泰典

ショートレクチャー:「周産期で必要な新生児の処置」飯塚病院小児科 岡田 純一郎

 
一般演題の中では、特に菜の花助産院の演題に質疑が集中。菜の花助産院は、[1]自然分娩と家族のケア [2]母乳育児 [3]思春期教育 [4]地域ぐるみの子育て支援を4つの柱として、地域に根ざした助産院を目標に、1年前にオープン。嘱託医や助産所機能評価の問題を含め、訴訟の多い時勢に、助産院としてどのように対応すべきかなど、産婦人科医の鋭い質問あり。ショートレクチャーは、ABO不適合による重症黄疸に対する交換輸血の実際、光線療法やPIカテーテル(末梢静脈挿入による中心静脈カテ)、Nasal-DPAPの人工呼吸器など、新生児医療の最新の話題を提供。