2008年の勉強会一覧(敬称略)




第188回 11/27 '08
小児細菌感染症の現況と展望-髄膜炎、肺炎、腸管感染症-
鹿児島大学付属病院小児科講師 西 順一郎

○A群レンサ球菌咽頭・扁桃炎(GAS)
迅速診断キットが普及したが、感度は咽頭培養の方が高い。咽頭培養で、血液寒天培地に塗布した翌朝にはβ溶血が観察できるので、有用性が高い。マクロライド耐性は15%もあり、再燃例では感受性試験も重要。
小児呼吸器感染症診療ガイドライン2007では、GASの抗菌薬療法として従来のペニシリン薬10日間が第一選択薬であるが、薬理学的およびコンプライアンスや服用期間の問題からセフェム系薬5日間でも有意差がないという報告もある。リウマチ熱の予防という観点からみれば、エビデンスがあるのはペニシリン薬にて、やはり第1選択薬はペニシリン薬。なお“保菌”は治療の対象にならない。
○肺炎
ガイドライン2007では、原因菌不明時の小児市中肺炎抗菌薬として、2ヶ月から5歳までの入院児(肺炎としては中等症~重症)の場合、SBT/ABPCかPIPCのペニシリン系と広域セフェム(CTRXやCTX)を推奨しているが、初期治療はペニシリン系の方が有用性は高い。広域セフェムは、スペクトラムが広く、耐性菌を増やし易く、本来は髄膜炎治療薬であり汎用は慎むべきである。カルバペネム系は最重症型の肺炎に適応があるが、耐性菌を誘導しやすく、菌が判明したらスペクトラムの狭い薬剤に変えるべし。(De-escalation)
インフルエンザ菌性肺炎では重症化は少なく、ABPCで開始して感受性判明後に変更しても十分治癒する。また同じペニシリン系薬であるPIPCは、インフルエンザ菌の薬剤耐性菌であるBLNARに対する良好な抗菌力を持ち、臨床的有用性が高い。
○抗菌剤の適正使用
健常保育園児の呼吸器病原菌保菌率は、肺炎球菌(60%)>インフルエンザ菌(50%)>モラキセラ(30%)>黄色ブドウ球菌(15%)の割合である。1菌種のみではく、2~3菌種同時に検出されることも多い。この保菌に対して、不必要に抗生剤を投与すべからずで、“念のため”投与は、耐性菌を増やすだけである。不必要な抗菌薬投与は薬剤耐性菌による合併症の頻度を増やすことにつながる。
抗菌薬選択の基本は原因菌を同定することである。咽頭や鼻腔培養は、下気道感染症の原因菌判定のゴールデンスタンダードとはなり得ない。乳幼児でも積極的に喀痰培養を採取すべきである。湿性咳嗽がある場合に、固定をしっかり行い、喉頭部を母指で圧迫して咳を誘発し、電灯付き舌圧子(小池式電灯付舌圧子)で舌根部を圧迫し、喀出される喀痰を1mlの注射筒で吸引し採取する。この採取した喀痰を生理食塩水で2~3回洗浄し、唾液成分を除去し、残った喀痰部分を塗抹グラム染色および培養に用いる。(洗浄喀痰培養)
○ペニシリン系の再評価
セフェム系薬の多用が、日本における肺炎球菌とインフルエンザ菌の耐性化をもたらしたと言われている。ペニシリン系は、セフェムに比べてペニシリン結合蛋白の変異を起しにくいと言われている。殺菌力が強く、AMPCの血中濃度はニューセフェムよりも高い。(Time above MICを長く維持できる。)さらにセフェム系よりも薬価が安価であり、医療資源の節約にもつながる。
○細菌性髄膜炎
細菌性髄膜炎の原因菌としては、インフルエンザ菌60%、肺炎球菌約30%の割合である。年齢分布としては0歳児が50%を占める。インフルエンザ菌は血清型別が重要で、髄膜炎の場合はほとんどがb型(Hib)であるため、b型を証明することが大事。
細菌性髄膜炎の早期診断は困難で、発熱第1病日では過半数が見逃される。抗菌薬による予防効果が有用であるという報告はなく、ワクチン以外に予防法はない。近年、日本では、髄膜炎をはじめとしたインフルエンザ菌の全身感染症が増加してきているが、これは乳幼児においてHib保菌者が増加し、同胞からまたは保育園での伝播が原因と考えられる。Hib保菌率は、報告では2~7%と言われている。
○Hibワクチン
2008年12月19日より、日本でもようやく実施可能となった。2~6ヶ月で3回、1年後に追加接種で計4回の接種回数である。任意接種としてスタートするが、3種混合ワクチンなど他のワクチンと同時接種が可能である。
抗PRP抗体(莢膜多糖体に対する抗体、polyribosil ribitol phosphate)がHibワクチンの主成分であり、オプソニン作用や補体活性化により、好中球によるHib貪食を促進すると言われている。このPRP抗体は生後2ヶ月までは母体から移行するものの生後3ヶ月から18ヶ月までは感染防御レベル以下に低下し、その後は不顕性感染や交差反応(大腸菌)により5歳頃には上昇する。実際のワクチンは、PRPに破傷風トキソイドを組み合わせたワクチン(ActHIB)で免疫原性を高めている。
○ワクチン費用公的補助の意義
鹿児島県は、日本で先駆けて、このHibワクチンの公的補助を打ち出した。その意義は、1.Hib髄膜炎から子どもを守る。「防げる病気で命を失わないこと」は子どもの権利 2.小児救急医療への貢献 髄膜炎の心配がなくなれば、発熱患者が自宅で様子をみることも可能となり、小児救急医療の負担軽減に貢献する。 3.髄膜炎以外のHibによる感染症の減少 敗血症、関節炎、骨髄炎、急性喉頭蓋炎、薬剤耐性Hibなどへも効果があり、補助による接種率向上は小児にとって大変有意義。 4.地方から全国への情報発信(定期接種への道) 補助により地方の接種率が上昇し、Hib髄膜炎患者の減少を示すことができれば、ワクチンの意義を全国に示すことが可能となる。 5.費用対効果 補助した方が自治体にとっては経済的にも有利。
(実際には、鹿児島県ではHibワクチン1回接種あたり、4000円を補助し、計4回で合計一人当たり16,000円の公的補助を打ち出されたようです。)公的補助を実施した県は、現在のところ鹿児島県と宮崎県だけです。

第187回 11/14 '08(第22回 筑豊感染症懇話会)
新型インフルエンザについて
神戸大学附属病院 感染症内科 教授 岩田健太郎

 1918年に流行したスペインカゼ(Spanish Flu,AH1N1型)は全世界で4千万人の死者を出した未曾有の感染症であった。(現在の3大感染症であるAIDS、結核、マラリアはそれぞれ年間数百万人程度の死亡であり、桁違いの感染症であることが分かる。)大流行が予想される新型インフルエンザ(海外では、Pandemic Fluと呼ぶ)は、トリインフルエンザ(Avian Flu,AH5N1型)と関連付けられているが、実際のところは架空の存在であり、まだ実在していない。スペインカゼ以前にもパンデミックの歴史があり、40~50年のスパンで起こりうると推測されている。

 東南アジアで流行したトリインフルエンザ(トリ→ヒト)の患者は、18歳が中央値で90%以上の患者が40歳以下の若年者であり、死亡率は60%にのぼった。(過去に流行したSARSは、子どもはほとんど罹患せず、中高年が中心で死亡率は約10%であった。)

 新型インフルエンザの場合、劇症型の肺炎(ARDS)を来し、10日程度で死に至る。確定診断はリアルタイムPCRで判定するが、結果が出るまでは4~6時間かかる。もしパンデミックが起これば、社会的な大混乱は必至で、秩序のない集団行動、詐欺・賄賂といった理性を欠いたコミュニケーションも横行しうる。そのためリスクコミュニケーションが重要で、特に医療従事者は誠実で正直な対応と強いリーダーシップが求められる。厚労省は“発熱外来”を視野にいれた新型インフルエンザ対策を立てているものの、普段の感染症に対応できずに、特殊な感染症に対応できるはずがない。病原体で区別するのではなく、すべての呼吸器感染症として同じ対策を立てて、アウトブレイクを防ぐ手だてが大事である。手洗いの励行、感染患者の隔離、マスクの使用、咳エチケットなど、普段の当たり前の感染対策をきちんきちんと行っていくことこそが肝要である。

 新興・再興感染症では、過去のデータを鵜呑みにしてはならない。現状の感染対策が本当に役に立つのか、いつでも修正が効くようにすること、毎日up-to-dateできるようにしておくことが大事。
 インフルエンザの治療薬として、リレンザとタミフルの2種類の抗ウイルス剤があるものの、リレンザは咳き込んでいる時に、肺まで十分に吸入できるかが問題で、現実的に有効性は疑問。むしろ予防投与として有用性が高い。タミフルは、問題行動が指摘されたが、タミフルを飲んでいても飲まなくても問題行動の発生率には差がないという結論が出たが、小児の場合は、薬の服用に関わらず、一緒に居てあげる、子どもの傍にいる事が大事。耐性の問題もあるため、通常のインフルエンザでは、リスクのない成人、小児には使用せず、基礎疾患のある人のみに使用すべきである。新型に関して、国はタミフル備蓄をうたっているものの、備蓄すべきはタミフルのみではない。水・食料がないと社会は止まってしまう。マスクやライフラインの確保も同時にやる必要がある。

 岩田先生は最後に次の言葉で締めくくりました。
“歴史から学べることは、我々が歴史から何も学ばないことである。”愚かな人類は、戦争や病原体の流行の歴史から何も学ぼうとせず、同じ過ちを繰り返している。頂門の一針として、肝に銘じておきたい言葉である。

第186回 11/5 '08(第20回 筑豊周産期懇話会)

一般講演

  • 「NICUにおける若年・シングルマザーに対するかかわり」 飯塚病院新生児センター 看護師 廣澤 つかさ
  • 「産褥婦に対するアロママッサージ導入に向けての試み」 田川市立病院産婦人科 看護師 小林 寿美子
  • 「褥婦のメンタルへルスケアの早期介入についての試み」 社会保険田川病院産婦人科 看護師 仲村 亜依子
  • 「助産師による当院産科の分娩について」 飯塚病院東4F病棟 助産師  川村 京子

ショートレクチャー

  • 「前置胎盤の管理について」 飯塚病院産婦人科 白橋 浄彦

第185回 10/24 '08
「乳幼児喘息の対応について」 
国立病院機構相模原病院 臨床研究センターアレルギー性疾患研究部部長 海老澤元宏

【筑豊地域における小児気管支喘息の長期管理薬の使用状況調査】

 本講演に先立ち、筑豊地域の小児を診療している医療機関の医師(病院、開業医、内科医も含む)33名にアンケート調査を行いました。
間欠型(ステップ1)において長期管理薬を使用する場合、多くの医師がロイコトリエン受容体拮抗薬(以下LTRAと略)を選択し、また軽症~重症(ステップ2~4)でも多くの医師がLTRAを第1あるいは第2選択薬としていた。LTRAが長期管理薬として間欠型から重症持続型まで広く使われていることが明らかとなった。中等症~重症持続型では、多くの医師が吸入ステロイドを第1選択薬としていた。総じて、小児気管支喘息治療・管理ガイドライン(JPGL)に沿った長期管理薬による治療が実施されていると想定された。

【本講演内容】

 喘息発症の環境因子として、幼小児期の間接喫煙が喘息発症のリスクファクターである。寝具中のダニアレルゲンも問題。喘息の季節性の影響としては、春と秋が多いが、ライノウイルスが喘息発症に関与していることが証明されたが、なぜ喘息の悪化因子になるのかは不明。
 乳幼児喘息の診断は、アトピー性皮膚炎や食物アレルギーと同様、狭義の診断は困難。1~2回の診察では診断し得ないため、ある程度長い経過をみて判断することが好ましい。JPGLでは、気道感染の有無にかかわらず、明らかな呼気性喘鳴を3エピソード以上繰り返す場合を広義の喘息としている。現在、乳幼児喘息に対してはLTRAが広く使用されているが、統計学的にもLTRA導入後重症の喘息が減ってきた。LTRAはテオフィリンに比べ、メジャーな副作用が少ないこともあり、early intervention(早期導入)が推奨されている。LTRAは従来のガイドラインでは抗アレルギー剤として一括されていたが、2008年の新しいガイドラインでは、他の抗アレルギー剤とは一線を画すこととなった。吸入ステロイド(ICS)に関しては、他の喘息治療薬と比べ、最も抗炎症作用が高いため、2歳未満の児でも中等症以上に投与が考慮されるものの、ICSの早期介入は、喘息のコントロールには有効であるが、将来的な喘息への以降を防ぎえるか(2次予防)という点では無効であるといわれている。5歳までの乳幼児のICSは、MDI(加圧式定量噴霧式吸入、フルタイドエアー)よりもネブライザーによる持続吸入療法(ブデソニド吸入用懸濁液、パルミコート)の方が手技上の面も含め有用性が高い。
 5歳以下の乳幼児喘息に関しては、JPGLが推奨する治療ガイドラインがあるものの、実際には詳細な治療効果は作成できないのが実情である。それぞれ個別で薬剤が効くか、効かないのかの遺伝子多型もあり、実際に薬剤を使ってみて反応をみるしかない。およそ2週間使ってみて効かない時はその薬剤を止めてみる必要がある。
 学校におけるアレルギー対策は、これまで全国的に統一された基準はなく、それぞれの地域、学校、担任らの取り組む姿勢により地域格差、学校格差、クラス格差が存在していた。運動誘発性喘息や食物アレルギーなど、学校現場におけるアレルギー疾患のガイドライン(学校生活指導管理表)を作成し、適正化、標準化されたアレルギー疾患への対応を学校側に周知する取り組みを始めた。

第184回 9/18 '08
「急性脳症とインフルエンザ脳症の考え方」
宮崎大学医学部生殖発達医学講座小児科学分野教授 布井博幸

【脳炎と脳症】

  • 脳炎は、ウイルスの脳実質への直接侵襲によるものでヘルペスウイルスが代表的。脳症は、過剰に産生された炎症性サイトカイン(サイトカインストーム)が脳実質に作用したもので、インフルエンザに代表されるが種々のウイルスで発症しうる。(インフルエンザ>HHV6,7>ロタ>ムンプス>アデノ、エンテロウイルスなど。)

【インフルエンザ脳症】

  • 致死率は15~30%と高く、25%が高次脳機能障害の後遺症あり。発熱を認めてから1日以内で急速に脳炎まで進行するもので、高サイトカインによるものと言われている。アポトーシス(細胞死)が起きているのではないかと推測されている。またミトコンドリアから出るチトクロームCが重症度と相関していると考えられている。治療としては、病早期のメチルプレドニソロンパルス療法の有効性が評価されているが、なぜパルス療法が効果であるのかは不明。その他アンチトロンビン大量療法などの抗アポトーシス療法も治療指針に挙げられている。脳症への罹患は個人差や人種差があるといわれており、今後遺伝的背景の検証と対策が期待されている。

【H5N1のトリインフルエンザ】

  • トリからヒトへのH5N1のトリインフルエンザに感染した場合の重症例、死亡例がベトナムやインドネシアなどから報告されているが、死亡原因は重症の肺炎である。感染すると発熱、咳嗽出現し、その後急速に呼吸状態が悪化し、ARDSの状態となり、およそ10日前後で死亡するケースが多い。H5N1タイプは、肺が中心に障害される。肺胞内のクララ細胞が強毒性に関与しており、NS1がホストの免疫反応に作用しているのではないかと考えられている。発熱から1日以内に発症するインフルエンザ脳症とH5N1による重症肺炎・ARDSとは発症機序が異なるようだ。

一般演題:「再発熱の鑑別にプロカルシトニンが有用であった細菌性髄膜炎の一例」 飯塚病院小児科 高瀬隆太

第183回 7/17 '08
「小児科診療とプロカルシトニン」
九州大学 成長発達医学分野准教授 楠原浩一

 従来、炎症反応のマーカーとして、白血球・CRP・血沈が代表的なものであったが、最近新たな感染症マーカーとしてプロカルシトニン(PCT)が脚光を浴びてきている。特に敗血症の鑑別診断、重症度判定に有用とされている。

【敗血症(Sepsis)の病態】

  • 敗血症(Sepsis)とは、感染症の存在に加えてSIRS(全身性炎症反応症候群)の所見がある病態をいう。重症敗血症(Severe Sepsis)とは、Sepsisに加え、臓器機能障害、循環器不全を合併する病態をいう。さらに敗血症性ショックとは、重症敗血症に加え、急速輸液に無反応、または昇圧剤などの投与を要する低血圧を合併した病態を言う。

【プロカルシトニン(PCT)】

  • PCTとは、カルシウム代謝関連ホルモンのひとつであるカルシトニンの前駆物質(ポリペブチド)であり、甲状腺のC細胞で生成される。全身性感染症では、甲状腺以外の全身臓器で産生される。感染が起こってから2~3時間で上昇し、24時間でプラトーに達する。PCTは、CRPよりも早く反応するため、より早期の感染症診断が容易になる。感染症マーカーとしてのPCTの特徴として、① 侵襲性細菌感染症における特異性が高い。② 細菌感染症との重症度と相関する。③ 発症後早期に上昇しやすい。④ 半減期が短く、治療効果を鋭敏に反映する。PCTのカットオフ値は、0.5ng/mLが基準で、0.5以上は細菌感染症を示唆し、2.0以上は重症感染症の可能性が高い。

【代表的疾患とPCT】

  • ○肺炎:PCT高値なら細菌性肺炎の可能性が高い。
  • ○尿路感染症:PCT高値は、腎瘢痕化のリスクと相関しており、腎実質障害、膀胱尿管逆流症(VUR)の予測因子になりうる。初回感染でPCT高値なら、逆行性膀胱造影(VCG)を考慮すべき。
  • ○フォーカス不明の発熱(Fever without source)やFebrile neutropenia(化学療法後の好中球減少症)においてもPCTの有用性は高い。
  • ○新生児:出生後48時間以内は、非感染状態でもCRPと同様、PCTも上昇しやすいため、細菌感染の評価は困難。48時間過ぎると、PCTでの感染症の評価は有用。

【その他、PCTの臨床的有用性】

  • ○ウイルス感染:ウイルス感染ではCRPは上昇軽度だが、PCTはカットオフ以下のことが多い。細菌感染の2次感染の評価にPCTは有用。
  • ○非感染性炎症性疾患:自己免疫疾患(若年性特発性関節炎、SLE、炎症性腸疾患など)で、CRP高値がよくみられるが、一部の自己免疫疾患を除けば、PCTは上昇しない。PCTとCRPを測定することにより、これら自己免疫疾患と細菌感染症の鑑別が有用となる。
  • ○川崎病:PCTとCRP両方とも高い場合は、冠動脈瘤形成しやすい。
  • ○細菌性髄膜炎:抗生剤やステロイド投与後、一旦解熱後の再発熱がある場合の鑑別としてPCT測定は有用。ステロイド投与後のリバウンドの発熱なら、PCTは上がらないが、再感染や合併症によるものであれば、PCTは上昇する。PCTはステロイドや免疫抑制剤の影響を受けにくい。
  • ○Drug fever:薬剤熱では、CRPは上昇しやすいが、PCTは上がりにくいため、薬剤熱と細菌感染の鑑別にも有用。
  • ○PFAPA(Periodic fever,aphthous-stomatitis,pharyngitis and adenitis)にも有用。

 PCTは、細菌感染に特異的な感染症マーカーであるが、感度と特異度を総合的に判断すると、PCT≧CRP>WBCとみられている。臨床的有用性は、発熱早期のウイルス性か細菌性の鑑別、若年性特発性関節炎(JIA)や潰瘍性大腸炎(UC)などの非感染性炎症性疾患の鑑別に有用性が高いものと思われる。 

一般演題:「新生児敗血症の1例」飯塚病院小児科 籠手田雄一

第182回 6/19 '08(第19回 筑豊周産期懇話会)

特別講演
「一絨毛膜性双胎の合併症と管理-胎児鏡手術を中心として-」
山口大学医学部付属病院 周産母子センター 准教授 中田 雅彦先生

第181回 5/22 '08(第21回筑豊感染症懇話会)
「新しい創傷治療」
石岡第一病院傷の治療センター 夏井 睦

 夏井 睦先生は、従来の皮膚外傷の理念を根底から覆した先生で、新しい創傷治療の理論を普及させるため、全国行脚されている先生です。今回の飯塚での講演も立ち見が出るほどで、講演終了後も質問の嵐。予定終了時刻をかなり超過するほど盛況でした。夏井先生の講演の要約です。

皮膚治療の3原則:“乾かすな、ガーゼを当てるな、消毒するな”
 毛孔、汗管が残っていれば皮膚は再生する。創傷治癒とは、組織培養のこと。傷が治るには、培養液(滲出液)が必要。傷のジュクジュクは、最強の組織培養。傷は乾かしたらダメ、乾燥させたら傷は治らない。(湿潤療法の意義)
代表的な創傷被覆材
ハイドロコロイド、アルギン酸、ポリウレタンフォーム、プラスモイストなど。
熱傷の治療
 患部の冷却は5分程度で十分。水疱が出来ていたら水疱膜をすべて除去。野菜専用のラップにワセリンを塗り患部に貼る。ワセリンは基剤として非常に安全。ワセリン塗布ラップは、日焼けにも最適。クリーム基剤は界面活性剤にて使用すべからず。
切創、挫創の治療
 泥砂のないきれいな傷は、アルギン酸を貼り、フィルム剤(オプサイト)で密封する。泥砂ある汚い傷は、局麻下ブラッシングして、アルギン酸を被覆。(歯ブラシごしごしアルギン酸)。アルギン酸は強力な止血作用もあり非常に有用性が高い。子どもで、局麻できない時は、キシロカインゼリーを塗ると5分以上経つと痛みは消失。
創感染の診断:infectionとcolonizationの違いを知る。
 創面は、“無菌”にはできない。Infectionは感染であり、有害で治療が必要。
 Colonizationは、単に菌がいる状態だけであって治療の対象ではない。放置していても可。炎症の4徴候のうち発赤と疼痛の2つが大事で、この2つが強い時が感染である。起炎菌は、菌が増殖する居場所があってはじめて感染を起こす。
 創面は滲出液で中性、好気性の環境にて、黄色ブドウ球菌には最適の環境。MRSAは、耐性獲得にエネルギーを消費してしまい、増殖するエネルギーに乏しい。創面のMRSAを消すには、傷を治せばよい。傷を治せば、MRSAはいなくなる。傷が治らないからMRSAがいる。傷を治すには、デブリードマンとドレナージが全て。消毒液は、人体の細胞を死滅させ、細菌を生き返らせる。消毒液は、無害でも安全でもなく、有害そのもの。
まとめ
 従来、擦り傷、切り傷、やけどなど、創傷治療には“痛み”は必須のものであった。傷が乾いてひりひりする痛み、ガーゼを剥がす時の痛み、消毒するときの痛み。新しい創傷治療は、患者に苦痛を与えない治療が大事であると強調された。小児の傷の治療でも、子どもに優しい治療、泣かせない工夫を実践することが大事であると痛感した。        

第180回 5/15 '08
「児童虐待対応のための医療連携−医療者の連携で救われる子どものいのちと健康−」
福岡市立こども総合相談センター 藤林武史

 児童虐待には、医療(診療所、病院)と福祉(児童相談所)が密接に連携しながら総合的に支援をしていく体制が必要である。総合的な支援とは、予防、発見、通告、介入・保護のみならず、その後の施設や里親でのケアや在宅支援、家族再統合や社会的自立支援、アフターケアや再発防止など、体系化した支援のことをいう。平成20年の改正児童虐待防止法(第4条)でも、「適切な指導および支援を行うため、関係省庁相互間その他関係機関及び民間団体の間の連携の強化、民間団体の支援、医療の提供体制の整備その他児童虐待防止等のために必要な体制の整備に努めなければならない。」とし、行政、医療、教育、福祉の連携の必要性を強調している。
 福岡市では、平成18年に、“福岡市子どもの虐待防止のための医療機関ネットワーク会議”を構築した。福岡市医師会(会長)、九州大学病院(病院長)、福岡大学病院(病院長)、福岡市立こども病院(院長)、福岡市区保健福祉センター(保健所長)、福岡市こどもみらい局(局長)、福岡市こども総合相談センター(所長)の7つの関係機関で構成されている。その活動内容は、1.子ども虐待事例について、医療機関相互、およびこども総合相談センター(福岡市における児童相談所)との連携と対応システムを構築する。2.システム構築にあたり必要とされる検証・研究活動を行う。3.虐待の診断・判断について構成機関は互いに連携・協力を行うこととする、が主な内容である。
 虐待のハイリスク要因の一つに「望まない妊娠」や親が統合失調症などの精神疾患を有している場合がある。虐待による死亡のハイリスクにもなり、妊娠周産期の相談体制が重要である。このようなハイリスク家庭は、保護者が周囲の援助をうまく利用できないことが多いため、近年、育児支援家庭訪問事業が始まった。こども家庭相談員がハイリスク家庭に派遣されて、子育ての相談、支援を行いながら虐待の未然防止、予防のために活動している。
 医療機関と児童相談所の良好な関係を築きあげるためには、それぞれのできることと限界を知ること、一方通行ではなく双方向的なやりとりを行うこと、ひとつひとつのケースを積み重ねていきながら、相互理解をはかることが重要であることを強調された。

「虐待の定義はあくまで子どもの側の定義であり、親の意図とは無関係です。親はいくら一生懸命であっても、その子をかわいいと思っていても、子ども側にとって有害な行為であれば虐待なのです。」(小林美智子、1994)
「虐待のサインの発見と通告は“子どもと家族への援助”へのきっかけであって、“加害者への告発”ではありません。」(宮本信也、2006)

(先生が講演の中で引用ならびにご自身の思いを語られた文章です。)

 虐待がエスカレートするかどうかの決め手は、周囲の援助につながるかどうか、自分のことを一生懸命心配してくれる人との出逢いがあるかどうかです。虐待事例の困難さは、通常の医療や福祉サービスと異なり、困難を抱え支援が必要であるにもかかわらず、親もこどもも援助を求めない、援助や関わりを拒否したり、心を開こうとしないことです。

一般演題「当院で経験した6歳男児、身体的虐待事例の検討」飯塚病院小児科 岩元二郎

179回 4/17 '08
「三種混合ワクチンを取り巻く最近の話題と新型インフルエンザに関する最新情報」
北里大学大学院 感染制御科学府准教授 渡辺峰雄

【DPT】

  • 予防接種、ワクチンの普及によって重篤な感染症が減少してきた。それゆえ感染症に対する関心が低下してきた。最もありふれた3種混合DPTワクチンのジフテリア、百日咳、破傷風といった古典的感染症が、再興感染症として新たな展開を見せはじめている。

【ジフテリア】

  • 発熱・咽頭痛・嚥下痛・嗄声に加えて犬吠様咳嗽・吸気性呼吸困難があれば喉頭ジフテリア(真性クループ)。扁桃腺に厚い偽膜を形成、頸部リンパ節腫脹が高度になるとブルネック(闘牛の首)状となる。ジフテリア菌の感染を受け、産生された毒素により昏睡や心筋炎などの全身症状がおこると死に至る危険が高い。
  • 近年、ロシアや周辺の独立国でジフテリアが大流行した。ワクチン接種率の低下、コンプライアンスの低下が原因で、感染者は、小児ではなく、成人に多くみられており、ジフテリアへの感受性が増えてきている。

【破傷風】

  • 破傷風菌は、土の中に普通にいる菌で、古くぎや交通事故などで感染を起こしやすい。伝染 力はなく、他人へは感染しない。破傷風毒素による全身症状を来たし、開口障害、嚥下障害、けいれん、筋肉の硬直によるエビゾリ(後弓反張)、破傷風顔貌(痙笑)などが特徴。新生児破傷風もあり、聖職者による割礼の儀式により感染するケースがある。アメリカでは、成人の感受性が増しており、破傷風の患者のほとんどは成人である。破傷風はいつでも起こりうる病気であり、ワクチン効力の切れた人の創傷は、ハイリスクである。

【百日咳】

  • 最近、海外の先進国では、成人の百日咳のアウトブレイクが起こっており、百日咳は、大人でも普通にかかるというのは常識になっている。小児では、特徴的な咳(スタッカート、ウーピング)、結膜下出血もみられる。乳児は、無呼吸発作が起こりやすく、乳幼児突然死症候群の鑑別の一つにもなりうる。成人は、慢性咳嗽があるものの、百日咳特有の咳き込みはなく、熱もなく軽症のため、咳喘息と誤診されやすい。問診で、子どもの咳を診たら、親の咳のチェックを行う必要がある。
  • このように小児期に接種したDPTワクチンの効果が減弱して、成人期になって、発症するケースが増えてきた。同ワクチンの効果は、4年から8年程度と言われている。ワクチン導入によって野生株との接触機会が激減し、自然免疫によるブースター効果がかからないため、ティーンエイジャーや大人になってから感染する。成人期の再接種を行うといった新免疫スケジュールの構築が必要である。

【インフルエンザ】

  • インフルエンザは、以下の3つに分類される。
  • 1.シーゾナルインフルエンザ(季節性);過去のウイルスによる交差免疫ワクチンで予防可能。 
  • Aソ連(H1N1)、A香港(H3N2)、B型など 
  • 2.鳥インフルエンザ;変異により病原性が高まり症状が出たもの。H5N1
  • 3.パンデミックインフルエンザ;鳥インフルエンザがヒトに感染し、人の体内で増殖できるように変化。人の体内で増殖し、ヒトからヒトへ効率よく感染できるようになったもの。
  • 新型インフルエンザを、WHOでは、フェイズ1→2→3→4→5→6の6段階に分類している。フェイズ1,2,3が鳥インフルエンザの段階。フェイズ3が、鳥インフルエンザがトリからヒトに感染事例があった際に取られる段階で新型インフルエンザのパンデミックアラートの段階である。現在の状況は、このフェイズ3に当たる。高速交通網の発達によりあっと間に感染は拡大し(フェイズ4,5)、フェイズ6になると、大流行期、いわゆるパンデミック期で、多数の死者が出て、社会的な大混乱が起こり、政治経済への影響、ライフラインの維持が困難になる。
  • パンデミックインフルエンザの発生は防ぐことはできないが、最近プレパンデミックワクチンが開発された。これは、これまでの鳥からヒトへの感染した事例から分離された新型になる可能性のある鳥インフルエンザ(H5N1)を原料にしたもので、優先順位で接種されるが、感染を防げるかどうかは未知数。現行の治療薬(タミフル、リレンザなどの抗ウイルス薬)の有効性は不明。新型インフルエンザワクチン(パンデミックワクチン)が供給されるのは、第1次流行終息後で、第1次流行の感染者には打つ手がない。
  • 伝染病の3要因として、病原体の制御(抗インフルエンザ薬の備蓄)、伝染経路の制御(外出規制、隔離、医療機関の保護、遺体処置の迅速化)、易感染宿主対策(ワクチン接種がすべて)があるが、これらのうち一つでも防げば、流行を防げる。医療従事者は、万全の感染防御体制を取る必要がある。自己犠牲精神は出さないこと。医療従事者が倒れては、多くの感染者は救えない。

178回 3/13 '08
「日常診療に見るミトコンドリア病」−糖尿病, 老化, 長寿, 脳卒中, 脳血管性認知障害, 血管内皮機能不全−日本のコホート研究と世界に先駆けた新規治療法開発の取り組み
久留米大学小児科教授 古賀靖敏

【ミトコンドリア病とは】

  •  ミトコンドリア病は、人間が生きるために必要なエネルギーを作り出している細胞内の小さな器官、ミトコンドリアがうまく機能しないために起こる病気である。今まで原因のわからなかった小児疾患の中に、多くのミトコンドリア病が隠れており、稀な病気ではないことが分かってきた。例えば、全国に650万人といわれる糖尿病患者の1.6%は、ミトコンドリアの点変異によるものと言われている。さらには、低身長や筋萎縮性側索硬化症、パーキンソン病、アルツハイマー病の一部も広義のミトコンドリア病としてとらえられている。ミトコンドリアDNAは核のDNAとは大きく異なり、母親からしか伝わらない母系遺伝であり、点変異の含量によって臨床病型が異なるのが特徴である。

【代表的なミトコンドリア病】

  •  日本における狭義のミトコンドリア病としての代表的な3病型が、MELAS (31.4%), KSS (Kearns-Sayre症候群) (21.5%), Leigh脳症 (18.2%)である。MELASは、最も頻度が高く、頭痛と嘔吐に加え、痙攣、片麻痺、同名半盲や皮質盲などの脳卒中様発作を主徴とし、難聴、知的退行、精神症状などの中枢神経症状がみられる。中枢神経系以外の症状として、筋力低下、低身長、心筋症などを起こすほか、糖尿病、腎不全などを併発することもある慢性進行性の疾患である。遺伝性、家族性にあらわれ、多くは20歳以前に発症する。頭部CTで、両側大脳基底核の石灰化、MRIではフレアやT2強調で高信号域を認める。血液検査では、血中および髄液中の乳酸値の高値が特徴で、筋生検では、ミトコンドリアの形態異常(赤色ぼろ線維)が確認できる。近年、MELASの脳卒中発作を予防する方法、後遺症を改善できる治療法である「L-アルギニン療法」を古賀教授が発見し、世界の注目を浴びている。
  •  ミトコンドリア病の最重症型がLeigh脳症といわれ、新生児期もしくは幼児期より精神・運動発達遅滞、筋緊張低下、摂食障害、眼球運動異常、呼吸障害、不随意運動、痙攣など多岐にわたる症状を呈する。症状は常に進行性で、知的退行が進み、主に小児期に死亡する予後不良の疾患である。

【まとめ】

  •  ミトコンドリアは、全身に分布する細胞内の小器官である。食事で摂取された炭水化物、脂肪、蛋白質などの栄養は、最終的にミトコンドリア内でATPというエネルギーに変換される。このATP合成がうまく出来ないために、体のいろいろなところでエネルギー不全のための症状が出現する。エネルギーを多く必要とする臓器、つまり脳、骨格筋、心筋、耳、内分泌器官、膵、消化管、腎などに障害が出やすい。低身長や片頭痛からの発見が多いのが特徴であるが、ミトコンドリア病は全身性の病気である。

177回 2/15 '08(第18回 筑豊周産期懇話会)

「分娩時に痙攣を伴う意識障害を来した1例」 田中クリニック 河野雅洋

  • 分娩中に起こる痙攣は、てんかん発作の他に、子癇発作、脳血管障害、脳腫瘍など重篤な病態によるものがあるが、精神的なものからくる、非てんかん性のけいれんも鑑別に挙げる必要がある。症例はG1P0の25歳女性。陣痛のため、頻回のナースコールあり。分娩時に意識障害を伴い、両腕を小刻みに震わせる痙攣が出現。結局、“ヒステリー”と診断。ヒステリーには、転換型と解離型がある。“転換”には、随意運動障害、感覚障害など身体症状が現れやすく、“解離”には健忘、遁走、昏迷、トランス、錯乱、もうろう状態、同一性障害などの精神症状が前面に現れる。最近は解離性障害が増加してきている。

「医療連携がスムースであった重症仮死の1例」 飯塚病院小児科 籠手田雄介

  • 常位胎盤早期剥離(早剥)は、発症頻度0.4 - 2%、周産期死亡率12%、児死亡率30 - 50%といわれ、ハイリスク分娩、緊急母体搬送の代表的病態である。発症の予測が極めて困難で、発症したら極めて緊急性が高い。症例はG0P0の32歳女性。今回かかりつけ産科医院で、母親学級に参加中、突然腹痛出現、エコーにて早剥と診断。連絡を受けて飯塚病院救命救急センター着、すぐに手術室搬入、超緊急帝切施行。当院着から娩出までわずか14分間。娩出直後は小児科医による迅速な気管内挿管、ルート確保し輸液。胎児仮死あったものの緊急処置が奏効し、母子ともに障害を残すことなく順調な経過をたどった。産科開業医 → 病院産科医 → 小児科医と巧みな連携プレーが母子の命を救った。早剥は、開業医から連絡があって30分以内の救急搬送、緊急手術が母子の予後を決定する。

「糖尿病合併妊娠の管理」 田川市立病院産婦人科 三浦成陽

  • 糖尿病合併妊娠は、ハイリスク妊娠の代表疾患で、母体の血糖管理が児の予後に大きく関与する。妊娠9週の胎芽期(器官形成期)の間に、血糖の管理がしっかりなされなければ、糖尿病に関する奇形が発生しやすい。HbA1Cと奇形発生は並行していると言われ、産科サイドでは、糖尿病の女性の場合、HbA1C値を正常化させてから妊娠を許可している。妊娠糖尿病(GDM)の母体管理のポイントは、1. スクリーニングでGDMを診断しGDMの見落としを最小限とする(妊娠初期では随時血糖95mg/dlをカットオフ値とする)。2. GDMの管理を正しく行い、周産期の合併症を予防する。3. 産後のフォローアップとして糖尿病の発症予防と早期診断に努める。

「腎動脈狭窄より出現した二次性心筋症の1例」社保田川病院児 谷秀和, 岸本慎太郎

176回 1/17 '08 「小児における抗菌薬の適正使用」 久留米大学小児科講師 津村直幹

 抗菌薬の消費量が薬剤耐性化に影響されやすいことが、欧州各国の調査で証明された。プライマリケアでの抗菌薬使用に関して、欧州各国間に大きな差が存在し、使用量が最も多かったのがフランスで、最も少なかったのがオランダであった。耐性化の指標としてのペニシリン耐性肺炎球菌の分離状況で、欧州では、オランダが最も少なく(約3%)、フランスが最大(約50%)であった。因みにアメリカは耐性率約45%、日本は60%を越えており、抗菌剤の過剰使用の実態が明るみになった。

A群溶連菌(GAS)のトピックス

  • 軟口蓋の燃えるような発赤と出血斑を認めることが多く、咽頭痛が著明。扁桃も赤く腫大し、滲出物を伴うことがある。口囲蒼白、苺舌がみられる。扁桃に偽膜を形成。咽頭扁桃炎の潜伏期は2~5日。膿痂疹では感染後、皮膚病変まで7~10日。適切な抗菌薬使用まで隔離が必要。
  • GAS発症の際の同胞への抗菌剤予防投与は推奨できない。同胞が発症した時点で治療開始すべきである。
  • マクロライド耐性溶連菌が増加している(耐性率15%)。水痘後のGASの2次感染が重症化し、蜂窩織炎、菌血症化しやすい。GASの場合、最初からマクロライドを使用すべからず。ペニシリン系10日間内服が基本だが、セフェム(メイアクト、フロモックスなど)5日間投与も推奨。
  • 視診上でGASとアデノウイルス感染の鑑別は困難。迅速キットが有用。おおむね、5歳以上は溶連菌、5歳未満はアデノが多い。


マイコプラズマ感染症・肺炎クラミジア感染症のトピックス

  • マイコプラズマの5~15%がマクロライド耐性。耐性菌では、感受性菌に比べ、有意に発熱期間が延長。マクロライドを使って2日以上解熱しない時は、耐性とみるべきで、テトラサイクリン系抗菌薬への変更を考慮。
  • 抗菌薬治療の原則は、第1選択としてマクロライド系薬(AZM3日間、CAM10日間)。マクロライド耐性が疑われる場合(マクロライド系薬投与後48時間解熱がみられない場合)、テトラサイクリン系抗菌薬10日間
  • 肺炎クラミジアの血清診断は、ヒタザイム・Cニューモニエで、単一血清で、IgM ID≧2.0のとき。または対血清で IgA ID≧1.35の上昇あるいはIgG ID≧1.0の上昇のとき。(単一血清IgA ID≧3.0 あるいはIgG ID≧3.0のときは疑診となる。)


専門用語の理解

  • MIC(minimum inhibitory consentration);最少発育阻止濃度
  • PK(pharmacokinetics);投与量と体内薬物濃度との関係をあらわす薬物動態
  • PD(pharmacodynamics);薬物濃度と効果との関係をあらわす薬力学
  • Time above MIC;血中濃度が投与間隔時間内に起炎菌のMICを上回る時間
  • MPC(Mutant prevention concentration);細菌は一定濃度以上の抗菌薬に暴露された場合、全く耐性を発現しないことが見出され、この耐性化を起こさない薬物濃度のこと。
  • MSW(Mutant selection window);MICとMPCの間の濃度で、耐性菌が高頻度に選択される領域のことを指す。


今後の課題として、MICを単純評価するのみならず、Time above MICやPK/PD理論を理解しながら、抗菌剤を適正に使用していくべきであると強調された。

一般演題:1. 今季のRSウィルス感染症による入院症例の検討 飯塚病院研修医 新垣達也
     2. 今季入院した下痢けいれんの臨床的検討 飯塚病院研修医 能田寛子