勉強会一覧 原則として1月と8月はお休みです。

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2010年の勉強会一覧(敬称略)

第213回 11/18 '10(26回 筑豊周産期懇話会)

「当院におけるカンガルーケアのとり組み」河上綾香(社保田川看)
「子宮頸がんワクチン接種普及活動にむけて~養護教諭へのアンケート調査結果より~」星野愛佳 他(田川市立産婦児病棟)
「分娩時急激に発症した胎児母体間輸血症候群の1例」大塚由香里 他(田中クリニック)
「当院におけるコッホ現象例の報告と対応」森田潤(こどもクリニックもりた)

ショートレクチャー:「子宮内感染と新生児予後」湯川知秀(飯塚児)

第212回 11/11'10(26回 筑豊感染症懇話会)
インフルエンザ最新情報
原土井病院 臨床研究部部長 池松秀之

 2009年パンデミックとなった新型インフルエンザ (A/H1N1pdm) は、世界各国と比較し重症例や死亡率は極端に低かった。その理由の一つに、インフルエンザ治療薬が発症早期(48時間以内)に使用可能であった点が高く評価されている。実際には48時間以上経過して投与しても、ウイルスがいる限り抗インフルエンザ薬は有効と言われている。
 従来のタミフル、リレンザに加え、今シーズンより新しい抗インフルエンザ薬であるイナビル(吸入剤)とラピアクタ(静注剤)が登場し、インフルエンザの患者を前に、どの抗ウイルス薬を使うか、選択の幅が増えた。新しい2剤は1回投与が可能となり、これまで5日間投与が基本であった従来のインフルエンザの治療が劇的に変わろうとしている。このような多種多様な選択肢を有する状況を踏まえると、治療面で考えれば、日本はインフルエンザ治療の先進国であると言える。

○ タミフル(一般名オセルタミビル)とリレンザ(一般名ザナビビル)

  • タミフル(内服剤)とリレンザ(吸入剤)は5日間投与が基本である。2009A/H1N1pdm には、タミフルもリレンザもよく効いた。しかしながら、臨床的には、タミフルはA/H1N1ソ連型には高度耐性が証明されている。さらにB型に関してはリレンザと比較し効果が弱いため、B型にはリレンザが良い。

○ 新薬:イナビル(一般名ラニナミビル)

  • 単回投与の吸入粉末剤(規格は20mg)で長時間作用型ノイラミナーゼ阻害薬(2010年10月19日に製造販売承認されたばかりの日本オリジナルの製品)成人は40mg(20mg を2 吸入)を単回吸入、10歳未満は20mg、10歳以上は40mg を単回吸入。これまでの臨床治験では、A/H1N1 にはタミフルよりも圧倒的によく効く。A/H3N2 にはタミフルとほぼ同等、B型にもタミフルよりはベター。おおむねリレンザとほぼ同等とみてよい。

○ 新薬:ラピアクタ(一般名ぺラミビル)

  • 点滴静注製剤として、2010年1月に製造販売承認。成人には300mgの単回投与、小児には10mg/kg (上限は 回量として600mg まで)の単回投与となっている。重症化した場合は連日反復投与も可能。本剤はハイリスクの基礎疾患を有する患者が感染した場合や、インフルエンザによる肺炎や脳症など重症化の兆候のある患者、さらには致死率の高い強毒型(H5N1)に対して有効性が期待されている。臨床治験で他剤との非劣性が証明されている。

○ 今後の展望

  • 来シーズン以降は、上記4剤(ノイラミダーゼ阻害薬)に加え、作用機序の異なる薬剤(ポリメラーゼ阻害薬)も加わる。これからのインフルエンザ治療は、インフルエンザのタイプや年齢に応じて使い分ける必要性が生じてきた。費用対効果や副作用、QOLを考慮した治療が要求される。

第211回 10/21'10
小児インフルエンザウイルス感染症とマクロライド
名古屋市立西部医療センター城北病院副院長 鈴木 悟

一般演題「2009 年新型インフルエンザの検証と今シーズンの展望」岩元二郎(飯塚児)

  • ・マクロライド系薬剤(特に14 員環のEM,CAM)には、細菌に対する抗菌力以外の作用が知られている。実際のエビデンスとしても、DPB(びまん性汎細気管支炎)やCLD(慢性肺疾患)への有効性が証明されている。炎症性サイトカインの産生抑制と抗炎症性サイトカインの産生増強、バイオフィルムの形成抑制、感染したウイルス量そのものを減少させる、接着因子(ICAM-1)の産生抑制にマクロライドが関与していることがわかってきた。実際のインフルエンザの診療でも、臨床試験で、抗ウイルス薬単独群よりもマクロライド(CAM)の併用群の方が、咳・鼻水といった呼吸器症状が優位に改善したという報告がある。さらにインフルエンザ罹患後の普通感冒への罹患率も、併用群の方が優位に低いことがわかった。
  • ・マクロライド系の実際の作用機序としては、気道局所における粘膜免疫の増強作用がある。TNFαやIFN-γといった過剰な炎症性サイトカインの抑制、IL-12(抗炎症性サイトカイン)を産生増強する。またウイルスの排除作用がある。これは、BALF 中のインフルエンザ量を蛍光抗体法で調べた結果でも、併用群の方が優位に減少していることが証明された。さらに粘液線毛輸送機能の改善がある。インフルエンザウイルスは線毛の根元に付着し、細胞内に侵入するが、マクロライドは線毛の形態を維持し、障害されにくくする働きがある。その他鼻汁中のsIgA もマクロライドを併用したほうが優位に増加したという報告もあり、臨床的にも局所免疫増強作用が証明された。
  • ・さらにインフルエンザ感染以外に、RS ウイルスの気道感染に関しても、マクロライドを投与した方が、入院期間や酸素補給期間、輸液投与期間を短縮させ、有効であるという報告もある。さらに普通感冒のライノウイルスにも同様の報告がある。実際の臨床では、インフルエンザ治療として、抗ウイルス薬とマクロライド(クラリスロマイシン)を10 mg/kgを5 日間投与し、肺炎合併例にはステロイド投与、さらに超重症例には、サーファクタント投与も考慮する。

第210回 9/24'10
子ども達をVPD(ワクチンで防げる病気)から守るために
日赤医療センター顧問 薗部友良

一般演題「母子感染が否定された5人同胞ーHBVキャリアの家族内水平感染事例」岩元二郎(飯塚児)

 1961 年(昭和36 年)、国民が平等に医療を受けられる国民皆保険制度がスタートし、来年で50 年を迎えようとしています。この日本の国民皆保険制度は、今や世界に冠たる医療システムとして高く評価されています。しかしながら病気になってからの医療の恩恵はあるものの、病気にならないようにする医療、予防医学の面、特に予防接種に関しては、世界標準にはるかに及ばないレベルと言われています。
 最近ようやくヒブワクチンや肺炎球菌ワクチン、HPV ワクチン接種が可能となりましたが、任意接種による費用負担を含め、多くの問題を抱えたままです。このような閉塞した現状を打破すべく、「VPD を知って、子どもを守る会」を立ち上げたパイオニア的存在が、今回講演にお招きした薗部友良(そのべともよし)先生です。

○ VPD の理解と啓発活動

  • VPD(Vaccine Preventable Diseases)とはワクチンで防げる病気の意味で、日本では、ワクチンさえ接種していれば、子どもの健康と命を損ねる病気を防げることが多く、VPD は防ぐべき病気である。ワクチンを打たないということは、防げるものを防がないという立派なネグレクトである。日本が未だに接種率が低い、予防接種に抵抗がある理由は、保護者に正しい情報が入っていないこと、世界では使えるのに日本では使えないワクチンの種類が多いこと、接種率をあげる努力をしないこと、政府のワクチン政策の遅れ、司法のあり方等に問題がある。VPD の恐ろしさを認識すべきで、VPD が発病した後には、根本的な治療法がない。自らVPD に罹患することによって他人に感染させ不幸を広げるし、無駄な医療費も増える。予防にまさる治療法はない。

○ ワクチンに対する偏見

  • 保護者の間には、「ワクチンを受けてもかかることがあるし、出来た抗体価も低いので、自然にかかった方が抗体価は高くなるのでよいのでは?」といった偏見がある。本当に自然感染がよいのか?心地よいそよ風も突風・竜巻も自然である。自然は基本的に恐ろしいもので、我々人類は自然の恐ろしい点を最大限に避けて、自然のよい点を最大限に利用し、生き延びてきた訳である。ワクチンは、弱めたウイルス・細菌やその成分を利用し、人間が持っている免疫を極めて上手に利用して病気から守る術を獲得したもので、人類の英知なのである。

○ 副作用と有害事象の認識、予防接種救済制度と司法の問題点

  • 予防接種を受けた後に起こった全ての悪いこと(有害事象)は、ワクチンそのものが原因とされやすい傾向が現在の日本にはある。ワクチン接種後や服薬後に見られた症状のすべてが、ワクチンや薬そのものによって引き起こされた訳でなく、接種・服薬後にみられた不都合と思われるすべての事柄を「有害事象」と呼ぶ。この中には真の有害事象(真の副作用)とニセの有害事象(あるいは紛れ込み事故)とがある。厚労省はこの有害事象報告を副作用報告と判断しているため、混乱が起きているのである。
  • 日本には“予防接種事故救済制度”があるが、ここでは科学的に因果関係のある事故だけでなく、紛れ込み事故と思われる例、いわゆるグレーゾーンの重い例も救済されているので、必ずしも科学的に判定された訳ではない。日本の予防接種裁判の問題点は、弱者救済が第一目的で、救済に当たり誰か(国・厚労省や医師など)の過失を必要とする過失保障制度である。これにより負の連鎖が起こり、予防接種行政が立ち遅れ、ワクチンを受けない、受けられない人が増えて、VPD の不幸が広がってきたのである。将来的には、無過失保障制度と免責制度の導入が必須である。ワクチンの重い副作用のほとんどは冤罪(無実の罪)である。

○ VPD の各疾患と世界とのワクチンギャップ

  • 現在、世界におけるVPD には27 種類の疾患がある。日本におけるVPD は、定期接種(受けなければいけない=公費負担)でBCG(結核)、ポリオ、麻疹、風疹、百日咳、破傷風、ジフテリア、日本脳炎の8種類。任意接種(受けた方がよい=有料)では、水痘、おたふくかぜ、B型肝炎、インフルエンザに加え、最近になってようやく登場したインフルエンザ菌(b 型)、肺炎球菌感染症、ヒトパピローマウイルス(子宮頸癌を惹起)の7 種類で、定期と任意あわせると計15 種類でしかない。世界とのワクチンギャップは甚だしい状況である。しかも任意接種というシステムは日本だけのようである。

「VPD を知って、子どもを守る会」『KNOW VPD AND PROTECT CHILDREN (NO VPD)』は、現在400 人以上の小児科医が会員で、正しい予防接種情報を発信している。インターネットで“VPD”と検索すると同会の各種情報が入手可能。

第209回 7/15’10
子供のアレルギー性鼻炎ー上気道から下気道へー
国立病院機構三重病院 耳鼻咽喉科医長 増田佐和子

一般演題:「当院で経験したアナフィラキシーの2 例」
食物性アナフィラキシーの2 歳女児 (飯塚病院研修医 林 豪毅)
薬剤性アナフィラキシーの14 歳女児(飯塚病院研修医 廣瀬皓介)


○ アレルギー鼻炎の疫学

  • かつては、“アレルギーマーチ”、最近では“One Airway One Disease”と言われているように、アレルギーは、局所の病変が多臓器にわたる病態と関連づけられている。気管支喘息の小児の8割にアレルギー性鼻炎(以下ARと略)の合併があり、その6割が中等症以上のARであるという。逆にARの小児の3割程度に気管支喘息を合併がある。発症年齢としては、喘息が平均2.9歳、ARが平均2.8歳で、低年齢化してきている。早期に適切にARを診断・治療することで喘息を予防できる。特にダニを含めた吸入抗原の感作は、就学前(3~5歳)で8~9割の児に急速に進むといわれている。よって近年は、“アレルギーでない子”をさがすのが大変といわれる時代になってきた。

○ アレルギー性鼻炎の診断と治療

  • ARの診断は、鼻炎症状(鼻汁、鼻閉)があることを確認し、次に鼻汁中の好酸球の検査を行い、さらに血液検査でダニやスギなどの特異的IgE(CAP-RAST)をチェックするという手順を踏んだ方がよい。成人なら鼻粘膜誘発テスト(抗原付きろ紙ディスク)を行い診断している。
  • 治療としては、各種抗アレルギー剤があるものの、特に“鼻閉”にはロイコトリエンがかなり関与しているので、抗ロイコトリエン拮抗薬(モンテルカスト、プランルカスト)が有効である(但し保険上は、喘息に適応あるもののARにはない)。血管収縮薬(商品名プリビナ、トーク)は、乳幼児には禁忌である。使用の際は、倍量に希釈して1日1回点鼻する。

○ 予防

  • アレルギーの予防には、1次予防(感作の予防)、2次予防(発症の予防)、3次予防(重症化の予防)がある。発症には遺伝的要因と環境要因が関与している。Th1/Th2バランスでは、Th2優位になるとアレルギーを発症しやすいという仮説を逆手にとって、Th1を活性化する、すなわち感染暴露を多くするとアレルギーになりにくいのではないかということで、早期にBCG を打ち、狭い家で子だくさん、犬・猫を2 匹以上飼い、あまり掃除をしない環境を作ることなどを推奨している専門家もいるが、現実離れしている感もある。
  • 特異的免疫療法(減感作療法)は喘息と比較し、ARには有効である。適応は6歳以降だが、ARの治癒可能が期待できる唯一の治療法である。最近は抗原も進歩しており、皮下免疫や舌下免疫療法が行われている。喘息と同様、ARにおいても早期介入(early intervention)がリモデリングによる重症化、難治化を予防し、喘息発症を予防できるのではないかといわれている。

第208回 6/8'10(25回 筑豊周産期懇話会)
合併症妊婦の管理
東京女医医大産婦人科准教授 牧野康男

一般演題:今期のインフルエンザ発症妊婦の傾向について 前原 都(飯塚産婦人科)

第207回 6/3'10(25回 筑豊感染症懇話会)
ヒトパピローマウイルス(HPV)と子宮頚癌
佐賀大学医学部産婦人科学教授 岩坂 剛


第206回 5/20’10
VPDに役立つ今後期待されるワクチン
国立病院機構福岡病院 統括診療部長 岡田賢司

一般演題:「重症肺炎球菌感染の2例(髄膜炎,化膿性関節炎)飯塚病院小児科

VPD とはVaccine Preventable Diseases の略で、「ワクチンで防げる病気」のことを言う。全世界においては、VPDは27種類の疾患がある。日本は海外と比較してもワクチンギャップがあり、世界標準にはるかに及ばないワクチン後進国である。このような状況下で、日本でもようやく小児用としてHib(ヒブ)ワクチン(2008 年12 月)と肺炎球菌ワクチン(2010 年2 月)が導入された。

(米国では、Hibワクチンは1987年、肺炎球菌ワクチン(PCV7)は2000年に導入されている。)
○インフルエンザ菌感染症

  • インフルエンザ菌の血清型はaからfの6種類があり、髄膜炎や喉頭蓋炎などの侵襲性の全身性感染症を起こすものの9 割は、b型(莢膜株)と言われている。Hibワクチン導入前の細菌性髄膜炎の全国の疫学調査では、5歳未満人口10 万人あたり7.0人と言われており、全国で年間400人程度が罹患している。Hibの全身感染症は、2歳未満の乳児に圧倒的に多い。

○肺炎球菌感染症

  • 肺炎球菌の血清型は現在93種類ほどあるが、血清型の同定は困難で一般的には行われていない。やはり莢膜株の病原性が高い。肺炎球菌性髄膜炎の罹患率は5歳未満人口10万人あたり2.8人で、年間で約150人程度の罹患がある。インフルエンザ菌感染と異なり、乳児から学童期にまで発生のピークがあり、基礎疾患を持つ患者に侵襲性の全身感染症が多いと言われている。肺炎球菌は鼻腔内に定着しやすく、1 歳までに40%が、保育園に行きはじめて2~3ヶ月経つと80%の児が、鼻腔に定着(保菌)するといわれている。インフルエンザ菌と比較すると重症度、死亡率も高い。また菌血症の原因菌の9割は肺炎球菌といわれている。肺炎球菌髄膜炎1 例に付き、その20倍の菌血症、1000倍の肺炎患者があると言われている。また肺炎球菌感染は高齢者にも多いことから、乳幼児へのワクチン接種で高齢者への感染予防の効果もある。

○肺炎球菌ワクチン(PCV7:Pneumococcal Conjugate vaccine)

  • 約90 種類ある血清型のうち、乳幼児に重篤な感染症を引き起こす主要な7種類の血清型(4,6B,9V,14,18C,19F,23F)の莢膜ポリサッカライドをキャリア蛋白である無毒性変異ジフテリア毒素に結合させたワクチンが、7価肺炎球菌ワクチン(PCV7)である。キャリア蛋白を結合させることにより、2歳未満の乳幼児にも有効なT 細胞依存型の免疫反応を惹起すると考えられている。米国では、2000年にPCV7の導入以降、髄膜炎の激減と肺炎では4割の入院減を来たしている。またPCVの中耳炎での血清型のカバー率は約6割程度と言われている。また肺炎球菌感染は高齢者にも多いことから、乳幼児へのPCV7の接種により、高齢者の感染を防げる効果もあるという。

○ワクチン接種体制

  • Hib 感染症は2歳未満が多いということで、Hibワクチンは、1歳以上は1回でよしとされているが、肺炎球菌感染症は、乳児期から学童に多いこともあり、PCV7は、生後2ヶ月以上9歳以下が接種対象とされている。接種回数は初回免疫3回、追加免疫1回の標準4回である。しかしながら、HibワクチンもPCV7も「任意接種」で、自己負担額が高い。有効性と安全性を検証していくことで、今後国策として「定期接種化」する必要があるが、地方を中心に公費助成で取り組んでいる自治体もある。HibワクチンとPCV7が導入されてから、日本においては、受診および接種回数を減らす目的で、DPTとの同時接種も推奨されている。世界的には、ワクチンの混合化、同時接種が広く行われており、今後日本でも同様な動きが加速されるであろう。

第205回 4/15'10
小児救急におけるNarrative Based Medicineとその教育
北九州市立八幡病院小児科部長・小児救急センター長 神園淳司

一般演題:「筑豊地区における児童虐待の現状」岩元二郎(麻生飯塚病院)
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Narrative Based Medicine(以下NBM と略)とは、「物語と対話による医療」のことを言う。患者の物語を理解し、対話によって心のこもった医療を提供しようという新しい診療理念である。このNBMの概念は、1998 年Evidence Based Medicine(以下EBM と略)を実践してきた英国の開業医から提唱されたのが始まりである。
○臨床決断(検査閾値と治療閾値)

  • 救急外来を受診した患者の診療の際、検査・治療に関しては、医師の経験や判断、患者の不安や要求の違いにより、標準化された診療は提供しにくい。検査をすべきか否か、いかなる検査内容を選択すべきか(検査閾値)、またどのような治療をすべきか(治療閾値)という検査・治療の判断に、同じ病院・診療科であっても個人差が生じるのは致し方ない事実である。臨床決断は、医師と患者のコミュニケーションギャップを埋めるために、エビデンス、知識、倫理、制約、患者要求などを考慮しながら、臨機応変の対応を迫られる。そしてこの臨床決断の際に、EBM に加えてNBM の理解が必要となってくる。

○医師と患者間のコミュニケーションに影響する要因

  • NBM に基づいた医療をいかに教育するかは大きな課題である。実際の診療場面で、難しい患者とのコミュニケーションは避けて通れない。このコミュニケーションに影響する因子として、患者側の要因は、病気に対する態度、身体症状、過去および現在の治療経験などがある。医師側の要因として、コミュニケーション技術、コミュニケーション能力に対する自信、パーソナリティー、疲労などの身体的要因、心配事などの心理的要因がある。さらに患者側、医師側だけでなく場面的要因もある。プライバシー、くつろげる雰囲気、適切な座席配置などもコミュニケーションに影響を与える因子として認識する必要がある。

○医療面接の技法

  • 一般的な医療面接の技法として、促進的・共感的・要約的対応や焦点を当てる対応、直接的質問(開かれた質問、閉じた質問)がある。特に患者が話しやすい医療者の態度としては、共感を表す傾聴の姿勢が問われることが多い。これは医療者の表情やうなずきなどの非言語的コミュニケーションが大きく関わっている。具体的には、聞き取りやすい声、丁寧さ、せかされていない印象、不安の軽減などが、患者(保護者)の総合的満足度をあげる。

○NBM 解釈モデル(患者の背景を聞くポイント)

  • 患者を担当する主治医として、物語と対話の良質な医療を提供するために、「聞き出す技能」を上達させるための6項目がある。(1)生活・就学状況などの社会・経済学的状況(医療保険、就学、登校、栄養状態) (2)思いや不安などの心理的状況(状況不安尺度、問診票の文字・文章) (3)病気や医療に対する考え方や理解(宗教、家族の病気) (4)検査や治療に関する希望や期待(抗生剤や点滴への考え方や期待)(5)過去の「受療行動」と「対処行動」(過去の診療録のチェック) (6)今一番不安と感じていること(「主訴」と「受診理由」)

○思いやりの人間関係スキル

  • 思いやりのスキルとは、人間関係において自分だけでなく、他人も肯定できるように一連の選択をすることである。他人からの評価は受けにくいため、現在の自分のスキルにどの程度満足しているかを自己評価する方法がある。(「思いやりの人間関係スキル 一人でできるトレーニング」R・ネルソンジョーンズ著 相川充訳 誠信書房を参照。この本では、人間関係の13 の領域における思いやりのスキルを列挙してあるが、紙面の都合上、3 項目を紹介する。)
  • (1)以下の人間関係の形成に持ち込むものを自覚し認識しているか?
    • 現在の自分のスキルの強さと弱さについて自覚できているか、人間関係においての自分の思考、感情、行動に責任をとることができるか、自分の幼少・学童期の育てられ方の影響について理解できるか、「恐れ」を弱める能力の不足はないか、相手の社会・文化的な問題に対する感受性があるか。
  • (2)自分自身のことを伝える
    • 上手に言葉をつかう、音声メッセージで上手に伝える、ボディーメッセージで上手に伝える、「私は、、、考えます」(Iメッセージ)という言い方をする能力、自分の感情を適切に表現する。
  • (3)上手に聞く
    • 自分の内的観点と相手の内的観点との違いを知る、興味を示し注目する、相手の言っていることを解読する能力、自分の聞くことに対する能力の限界について自覚する。

市立八幡病院では、以下のような内容で、「人間関係スキルに関する誓約書」を医局員に周知させているという。どんなに忙しく、疲れた時にでも一定のチーム医療を維持するために、自分の感情を把握し、コントロールします。正直でオープンな態度で、相手との人間関係を発展させます。相手の訴えに十分に耳を傾けます。相手が理解されていると感じられるように行動します。自分が理解した内容を分かりやすく説明します。相手の助けになるように対応します。自らの怒りや争いの感情を建設的に管理します。

第204回 3/18'10
PK/PD理論からみた小児用経口セフェムの使用方法
東京慈恵医大教授 豊永義清

○ 日本と米国の経口抗菌剤の使用状況

  • 日本は従来よりセフェム系の使用が圧倒的に多く、ペニシリン系をあまり使わない国であった。近年抗菌剤の適正使用が宣伝されてきたが、それでもセフェムとマクロライドばかりで、ペニシリンは使われていない。米国ではペニシリン、セフェム、マクロライドと同頻度に使用されている。

○ 一般外来での経口抗菌薬と起炎菌の現状

  • 外来で、市中感染菌として代表的な肺炎球菌、インフルエンザ菌に対処できるのはCDTR-PI(メイアクト)、CFPN-PI(フロモックス)、CFTM-PI(トミロン)の3薬剤である。MICも同様の順番で低い。マクロライドは、マイコプラズマとクラミジアによる下気道感染しか効かず。最近登場したキノロン(オラペネム)は、インフルエンザ菌に強い。肺炎球菌は薬剤を変えても耐性菌の頻度は変わらないが、インフルエンザ菌はペニシリンばかり使うとBLNARが増える。

○ PK/PD理論(PK:薬物動態、PD:薬力学)

  • 抗菌薬をより有効かつ安全に使用することは耐性菌を生じさせない投与法につながるが、現在では、PK/PD理論に依拠した科学的な抗菌薬投与の方法の探索が必須とされる時代になってきている。PKは薬剤投与量・投与方法と体内における薬物濃度との関係を示し、PDは得られた薬物濃度と薬物反応(治療効果・有害事象)の関係を示す。PKのパラメーターとして、MIC(最小発育阻止濃度)、特にTime above MIC(TAM)が、重要である。PK/PD理論からすれば、血清アルブミンと結合した抗菌薬は抗菌力を発揮できない。遊離体濃度で考えること(非遊離体は活性がない)。濃度依存性の薬剤は、アミノグリコシドとキノロンが代表的。ペニシリン系やセフェム系、カルバペネム系は時間依存性の殺菌作用を示し、Time above MICが相関する。

○ 抗菌薬投与の考え方

  • 経口抗菌薬は軽症例に適応があり、中等症にはOPATか入院による静注療法が必要。SSSSやSepsis、骨髄炎、膿胸、細菌性髄膜炎などの重症感染症は、もはやOPATの適応はなく、入院して、CTRX,MEPM,TAZ/PIPC等の静注用抗菌剤の適応である。1歳から4歳位の幼児でも、マイコプラズマやクラミジアなどの非定型肺炎は数多く存在する。マイコは学童以上に多いといった従来の考えでは落とし穴がある。

第203回 2/18'10
(第24回 筑豊周産期懇話会)

レクチャー:「子宮頚癌とHPVワクチン」江口冬樹 部長(飯塚病院産婦)
演題発表:
「当院における母乳外来利用者の現状と問題点」井上真紀(田川市立産婦 助産師)
「母乳育児推進に向けた当院の取り組み」角田祐子(飯塚産婦 助産師)
「田川流事業仕分けー小児科医の視点からー」田中祥一朗(社保田川児)
「当院におけるLate preterm症例の検討」阿南春分(飯塚産婦)

第202回 1/28 '10
インフルエンザ感染における炎症制御
九州保健福祉大学薬学部感染治療学教授 佐藤圭創

 感染症治療は、微生物そのものに対する抗微生物療法だけでなく、微生物の生物活性の制御、感染に伴う宿主の過剰な免疫反応を制御するという3つの視点が大事で、総合的な観点から「きれいに治す」という概念が必要である。
インフルエンザとは?

  • 新型インフルエンザ(正確にはパンデミックインフルエンザA(H1N1)2009)の感染率は2.0程度(感染率とは、1人の患者が何人に感染させるかという意味で、2.0とは1人の患者が2人に感染させるということ)で、季節型は1.0。致死率は全世界で0.4%程度(季節型は0.1%)だが、日本の死亡率は低い。海外では、50歳未満にも重症例や死亡例が多くあり、死亡例の30%は細菌性肺炎の合併がみられた。下気道から肺にかけての親和性が高く、若年者においても重篤な呼吸不全を伴う「ウイルス肺炎」の報告が相次いでおり、これは過剰な免疫反応連鎖(サイトカインストーム)が原因と言われている。また脳症やARDSは起こりうるものの、MOF(多臓器不全)は起こりにくい。病原性と抗原性は、A(H1N1)1918のいわゆるスペインかぜと類似している。毒性は、H5N1>>A(H1N1)1918=A(H1N1)2009>季節型H3(香港型)>季節型H1(ソ連型)で、特にH5N1はA(H1N1)2009の100倍の強毒性があると言われている。
  • 昨年からの新型の感染(第1波)がパンデミックに起こったものの、抗体保有率はまだまだ低く、季節型には及ぶものではなく、第2波、3波が起こりえるのは必至である。従来の注射によるワクチン免疫による抗体は、IgG抗体が主役で、感染後の生体内ウイルスの増殖を抑制することにより、重篤化を抑制する。粘膜ワクチン(粘膜免疫)の主役はIgAで、感染そのものを防御する抗体と言われ、今後の普及が待ち望まれる。
  • 治療に関しては、ターゲットとして、インフルエンザウイルス、細菌の2次感染、過剰な免疫反応の3つの視点を考慮に入れた治療が必要である。現存の抗ウイルス薬(タミフル、リレンザ)に加え、新たな治療薬が次々に登場予定だが、ウイルスそのものを狙った治療だけでは耐性が生じ、ウイルスとのいたちごっこである。宿主の過剰な免疫反応をコントロールする治療もまた、「きれいに治す」といった観点からも大事になってくる。

インフルエンザの重症化の病態とマクロライド療法

  • 重症化の病態とは、すなわち宿主の過剰な免疫反応が関与している。IFNなどの炎症性サイトカインや酸化作用のあるフリーラジカルによる組織障害が進行し、重症化を来たす。よって抗ウイルス療法だけでなく、過剰な免疫を抑制する治療法が必要になってくる。そこでクローズアップされたのがエリスロマイシンやクラリスロマイシンなどの14員環マクロライド系薬剤(MLDS)である。MLDSは、古くて新しい薬剤(古い=抗菌活性、新しい=抗炎症作用)と言われている。呼吸器内科領域では、MLDSはびまん性汎細気管支炎(DPB)に対しては劇的な効果を示しており、その効果は抗菌活性に基づくものではなく、抗炎症作用によるものと報告されている。宿主への抗炎症、抗酸化作用としてサイトカインの分泌制御、細胞の増殖能・分化・貪食能の活性化、活性酸素生成の抑制などの効果がある。このような観点から、インフルエンザによる過剰な免疫反応の抑制効果を狙って、MLDSの使用が推奨されるようになってきた。MLDSは感染早期のIL-12を誘導することによってIFN生成を促し、ウイルスを除去することで発症を抑制する効果が期待されている。
  • インフルエンザに合併する肺炎で最も多いのは肺炎球菌性肺炎である。菌種別では、肺炎球菌>>黄色ブドウ球菌>インフルエンザ菌。肺炎球菌に対するMLDSの有効性も証明されている。このように過剰な免疫反応の抑制と細菌の2次感染の予防に関してもMLDSを抗ウイルス剤(タミフル、リレンザ)と併用することは意義のあることで、インフルエンザ感染の早期には、抗ウイルス効果があり、後期には免疫抑制効果がある。よってMLDSはできるだけ早く投与したほうがよいが、感染後しばらく経過してから投与しても免疫抑制効果があり、臨床的にも有用である。実際には、インフルエンザ感染時は抗ウイルス剤と併用で、気道感染合併ある場合は、たとえばCAM(クラリス)を15mg/kg分3で7~14日間程度、気道感染の合併ない時は、CAM10mg/kg分2を5日間程度投与するとよい。

まとめ
インフルエンザの病態と治療に関しては、以下の3つの視点 1.インフルエンザウイルスそのものによるもの 2.細菌の2次感染によるもの 3.過剰な免疫反応によるもの を考えること。病態に合わせて的確に治療することが重要である。ウイルスだけがターゲットでなく、重症化防止のためにも、早期の抗ウイルス剤投与とMLDSの併用は臨床的有用性が高い。インフルエンザのみならず、感染した際は、ウイルスだけを見ていてはだめ。ウイルス、宿主、細菌、環境を総合的にコントロールすることが、「きれいに治す」コツである。
MLDSは古くて新しい薬、すなわち抗微生物剤から総合感染症治療薬に進化した薬である。

一般演題:(19:00~19:20)飯塚病院小児科部長 岩元二郎
  ・除菌療法(PAC 療法)が奏功したヘリコバクターピロリ感染症の10 歳女児例
  ・2009 年飯塚病院小児科診療報告