勉強会一覧 原則として1月と8月はお休みです。

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2014年の勉強会一覧(敬称略)

第260回 11/20’14 第38回 筑豊周産期懇話会

「当院で分娩した褥婦に対するアンケート調査の実施ーニーズに応えるための支援の検討ー」
後藤千恵,塚本美由紀,高崎望、井上真紀,田中智美(田川市立病院3F東病棟)
「本院での臍ヘルニアの圧迫療法の治療について」
永田陽子,田嶋理恵子,森田潤(こどもクリニックもりた)
「虐待拠点病院および総合周産期母子医療センターとしての周産期からの虐待予防」
岩元二郎(飯塚病院児)

レクチャー「みなおしてみよう、予防接種ーワクチンのこれからの展望と課題ー」日高智子 医長(田川市立病院小児科)

1.新しく導入されたワクチン

  • ○Hib ワクチンと肺炎球菌ワクチン
    • 2008年12月にHib ワクチンの任意接種が開始、2010年2月に7価肺炎球菌ワクチン(PCV7)の任意接種が開始、2010年11月に両ワクチンの公費助成が開始(福岡県では2011年3月)、2013年4月に両ワクチンの定期接種化、そして2013年11月に13価の肺炎球菌ワクチン(PCV13)が導入された。この両ワクチンの登場により、細菌性髄膜炎に代表される侵襲性のインフルエンザ菌、肺炎球菌感染症は激減した。保育園に通園を開始するとわずか3~4ヶ月の間にインフルエンザ菌や肺炎球菌が定着(保菌)してしまい、またきょうだい同胞がいるほど未就園児の保菌率は高いため、生後2ヶ月からのワクチンデビューとして両ワクチンの定期接種が推奨されている。肺炎球菌ワクチンに関しては小児に徹底することで、高齢者の感染予防にもつながる(間接効果)。さらにはワクチン接種をすることにより、未接種者の発症も抑制される(集団免疫効果)ことも証明されている。肺炎球菌に関しては、PCV7からPCV13に切り替わったものの、PCV13にも含まれない血清型(非ワクチン型)が増加しており、非ワクチン型による細菌性髄膜炎罹患の報告もあげられている。
  • ○ポリオワクチン
    • 経口ポリオ生ワクチン(OPV)から注射の単独不活化ポリオワクチン(IPV)に変更になったのが2012年9月、さらにIPVとDPT(3種混合ワクチン)を組み合わせた4種混合ワクチン(DPT-IPV)が2012年11月に導入された。背景には、OPVは接種が簡便で腸管局所免疫が獲得できるという長所がある一方で、ワクチン関連麻痺や生ワクチン由来株の伝播の問題があり、IPVへの切り替えが進められた。OPVは経口摂取後、弱毒化ウイルスが腸管で一定期間増殖することにより、腸管免疫および血中中和抗体を効果的に誘導する。腸管免疫の誘導により、糞便中へのポリオウイルス排出効果を低下させ、集団におけるウイルス伝播効率を抑制する。一方IPVは数回の接種により血中中和抗体を誘導し、ポリオ発症を抑制するが、腸管免疫は誘導しないため、ウイルス伝播効率はOPVよりも低い。このため、ポリオ流行国におけるポリオコントロールにはOPVが不可欠で、ポリオ根絶の最終段階および野生型ポリオ根絶達成後にはIPVの導入が必要。
  • ○ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン
    • 日本における20~30代の女性の癌で近年急激に増加し、かつ最も罹患する頻度の高い癌が子宮頸がんである。この子宮頸がんを引き起こす原因がHPV感染である。HPVは100以上の遺伝子型があり、感染する部位により皮膚型と粘膜型がある。粘膜型HPVはさらにHPV関連がんから検出されるhigh-risk HPVと尖圭コンジローマなどの良性乳頭腫から検出されるlow-risk HPVに分けられる。high-riskの血清型の16型と18型の2価をカバーするワクチンがサーバリックスで2009年10月に発売開始、16と18のハイリスクに加え、6型と11型のlow-riskを加えた4価のワクチンがガーダシルで2011年7月に発売された。ガーダシルは子宮頸がんだけでなく、HPV6/11による尖圭コンジローマが適応となる。この両ワクチンは、性交未経験者の接種が特に有効とされており、サーバリックスは10歳以上、ガーダシルは9歳以上の女性が対象とされている。子宮頸がんはワクチンで予防できる癌であるものの、現在は副反応の調査のため、積極的な推奨はされておらず、接種率は向上していない。
  • ○B 型肝炎(HBV)ワクチン
    • Selective vaccinationとして、日本ではHBVキャリア母から生まれる児を対象とした感染防止プログラムで、完全に実施できれば94~97%でキャリア化が防止できるとされている。導入により小児のHBVキャリア数は約1/10 に激減した。それでも日本における小児のHBV感染経路としては、母子感染が70%で依然として高い割合である。残り30%が母子感染以外の水平感染である。母子感染予防スケジュールは2013年10月に改訂され、出生時すぐのワクチンとHBIG、生後1、6ヶ月時のワクチン接種、生後9~12ヶ月時のHBs抗原・抗体検査の実施となった。3回接種後に抗体価10IU/ml 未満の場合には、もう1クール接種する。抗体価は一生持続するわけではないが、家族内の水平感染は接触が特に濃厚な就学前が主と考えられ、小学校入学時に陽性であれば、その後の抗体価の測定は必要ないと考えられている。母子感染や乳児期の水平感染でHBVに感染した場合、90%以上は無症候性キャリアとなるが、一部は慢性肝炎、肝硬変、肝がんに伸展する。一度でもB型肝炎ウイルスに罹患すると細胞核内に微量のDNA が残り、免疫低下時に再活性化するため、HBV には感染をさせないということが重要。HBVは母子感染予防のみでは不十分にて、世界標準はUniversal vaccinationである。出生時にすべての新生児にワクチンを接種することであり、キャリア化しやすい小児期のHBV抵抗性を保持する目的がある。
  • ○日本脳炎ワクチン
    • 日本脳炎ワクチンは、1954年マウス脳由来の不活化ワクチンが始まりである。2005年5月、重症ADEM例が予防接種健康被害に認定され、積極的勧奨が差し控えになり、接種率が激減した。2009年に従来の主流であったマウス脳から細胞培養ワクチンに切り替えられ、2010年4月から積極的勧奨を再開した。2006年から2011年までの5年間に、接種差し控えによる抗体保有率が低くなり、九州中四国を中心に31例中6例の小児の発症が確認された。
  • ○ロタウイルスワクチン
    • ロタウイルスワクチンは任意接種のワクチンであり、2011年11月に1価のワクチンで2回接種のロタリックスが、2012年7月に5価のワクチンで3回接種が必要なロタテックが日本で導入になった。世界では5歳未満児において年間60万人がロタ腸炎関連で死亡しており、その98%は発展途上国である。嘔吐下痢症のみならず、ロタウイルスは脳症を引き起こす原因ウイルスとして、インフルエンザ、HHV-6に次ぐ第3のウイルスでもある。

2. ワクチン関連の最近の話題

  • ○先天性風疹症候群(CRS)
    • TORCH症候群の共通の特徴として、母体の妊娠中の感染症状が不明瞭であるが、出生後の児の症状は概ね類似している。低出生体重、肝脾腫・黄疸、皮疹、水頭症や頭蓋内石灰化、精神遅滞、難聴などは共通した症状である。2013年に日本で風疹の大流行があり、流行の中心は成人男性が主体で、うち20~40代男性が8割を占めており、CRSの患者数は2000年以降最高の年間30例を超えた。CRSは妊娠8週までの器官形成期である胎芽期に母体が感染すると発症しやすい。CRSの異常出現率は難聴が90%と最も高率で、先天性心疾患が60%、白内障/緑内障は50%となっている。
  • ○百日咳
    • 近年の百日咳の患者報告数の推移の特徴として、小児よりも15歳以上の成人の百日咳罹患数の方が高いのが特徴である。米国では近年の成人の百日咳の増加により、小児が罹患し特に乳児百日咳の死亡例が増加したことが報告されている。百日咳の自然感染による獲得抗体の存続期間は15年程とされており、ワクチンの場合は概ね6年程度と言われており、抗体が長く維持されない。このため百日咳含有ワクチンは米国では6回、日本では4回となっている。英国では、2012年10月に妊婦への百日咳ワクチン投与プログラムが導入され、妊婦に百日咳ワクチンを投与することで、胎児への移行抗体を増加させ、母体の百日咳罹患を減らすことにより、乳児百日咳を予防するのが目的である。この結果、3ヶ月未満の乳児の百日咳での入院を68%減少させ、出産の7日前までに妊婦にワクチンを接種すれば90%の予防効果があることが報告された。

○おわりに

  • ワクチンによりVPD(vaccine preventable disease)の流行が減り、病原体との接触すなわち自然感染が減っていることにより、Secondary vaccine failureによる新たな問題が出現している。このため成人への追加接種などの対応を検討する必要がある。

第259回 11/12 ‘14
「子どもを支える、家族を支えるー臨床心理士として、そして、ダウン症の子どもの親としてー」信州大学医学部保健学科 玉井真理子 准教授

一般演題「マイコプラズマ肺炎の過去5年間入院症例の実態ートシル酸トスフロキサシン登場による波及効果」岩元二郎(飯塚病児)

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玉井真理子先生は、信州大学医学部保健学科の教員と大学病院の遺伝子診療部の臨床心理士としてご活躍されています。『遺伝医療とこころのケア』(日本放送出版協会)という本も執筆される程、遺伝カウンセリングをご専門とされており、最近話題になっているNIPT(非侵襲的出生前母体血胎児染色体検査)にも造詣の深い先生です。
○はじめに

  • イギリスの小児科医でもあり精神科医でもあるWinnicott(ウィニコット)の言葉に、「単独の赤ん坊というのは存在しない。母親と子どもという関係性が存在している」というものがある。家族(親、きょうだい)との関係性の中で子どもを捉えていく視点が大事であることを説いている。今回の「子どもを支える、家族を支える」という演題名の背景には、ファミリー・センタード・ケア(FCC)というものがあり、家族中心のケア、子どもを家族の一員として捉えて行うケア、子どもだけでなく家族全体を視野に入れたケアを実践していく必要がある。

○心理士にとって「聴く」ということは?

  • 臨床心理士にとって「聴く」ということはそんなに簡単なことではない。気の利いたことを言いたくなってしまうことがあるが、深刻であればある程、重たければ重たい程、聴けなくなり、言えなくなってしまう。心理士にとって「聴く」ということは、ものを訊ねる(問いただす)のではなく、何かを聞き出すのでもなく、説明でも、説得でも、説教でもなく、情報収集でも、事情聴取でもなく、ただひたすら全身全霊を傾けて「聴く」ということである。

○病気や障害をもつ子どもの親になるとは?

  • 「障害児の親」は最初から「障害児の親」としてそこにいるわけではない。思い描いていた「健康な子ども」という対象を失う(対象喪失)ことで、喪の仕事(モーニング・ワーク)を経ながら、ある時点を境にして、「障害児の親」になっていく。「ある日突然」だったり、「じわじわ」だったりする。多くの親にとって「思いがけない」できごとであり、戸惑い、うろたえる場合がほとんどである。障害を持った子どもの出生は、親にとっては、「先が見えない不安」というよりも、むしろ「普通の暮らしが奪われるという恐怖」に近い。障害を宣告された時の親の気持ちとしては、衝撃から自責感・罪悪感となり、孤立感、なぜ自分だけがという怒りに発展してしまう。障害の宣告がとりわけ出生前診断、胎児診断である場合は、モンスター・イメージが膨らみやすく、胎児との関係性の回避・拒否につながりやすい。

○障害の受容

  • ダウン症の出生率は約1000人に1人だと医師より説明を受ける。“あなた方は決して一人ではない”とやさしく語りかけてくれても、なぜよりによってこの私たちのところに、その1000分の1がやってこなければならなかったのかという問いには誰も答えてはくれない。親たちは嘆きながら、「障害児の親」としての新しいアイデンティティーを求めてさまよう。嘆きや悲しみ、怒りや悔しさを自分にしか語れない言葉にして紡いでいくことをしはじめる。障害を持っていることそのものが不幸なのではなく、障害を持っていることを不幸だとしか思ってもらえないことこそが不幸なのだと気づいていく。子どもをわが子として引き受けるということは、「病気や障害を持った子どもが一定程度生まれてくる」という事実を引き受けることになるのだということを理解していく。「障害児の親」であることを選びなおす道のりが「受容」につながっていく。医療者側からみて、障害児の親の「受容」が進んでいないと感じられる場合は、病気や障害の「受容」ができない親を医療者自身が「受容」できていないのではないかという視座を持つ必要があるのではないか。医療者として、望ましい「受容像」を押し付けていないかどうかを振り返る必要がある。

○支援のあり方

  • 医療者すなわち支援する側は自らが伝えようとしているメッセージと、支援される側である患者に伝わってしまうメッセージは、同じではないということを認識すべきである。親の気持ちと医療者の気持ちがいかにすれ違うものなのか、特によかれと思って医療者がかけた言葉によって、親がいかに傷ついているかを知る必要がある。忘れてはいけないことは、このような食い違いは、医療者の想像をはるかに越えて、頻繁に、そして深刻な形で起きているということである。医療者は少なくとも、そのギャップについて自覚的になることが支援する場合に注意すべきことである。現在の医療は、患者・家族中心の医療(ファミリー・センタード・ケア)と言いながらも、目標の達成が重視される中で、医療者のまなざしが家族を追い詰める結果になっていないかを常に自問自答する必要がある。

第258回 10/29’14
「トラベラーズワクチンの現状と問題点」久留米大学医学部感染防御講座 渡邊 浩 教授

一般演題「「抗菌剤未使用にて偽膜性腸炎を発症した8 歳男児の1 例」新道 悠(飯塚病院家庭医療プログラム後期研修医)
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○エボラ出血熱

  • 1976年アフリカのスーダンで、初めてエボラウイルスによる感染者と死亡が報告された新興感染症で、感染すると半分が死亡すると言われている。日本では感染症法1類感染症に分類されており、患者が発生したら直ちに届出後、指定医療機関で隔離治療となる。アメリカでは防護服を着ていても感染を来たしたことより、防護服の取り扱い方を問題視している。さらに州によっては感染者と接触しただけで症状がなくても隔離を行うようになってきている。日本でもアフリカのリベリア帰りの帰国者が発熱を来たしたということで隔離して検査を行ったが陰性を確認。沖縄でも同様のアフリカ帰りの帰国者が発熱を来たした例があり、事後報告で混乱を来たしたが結局マラリアによる発熱であったことが判明した。日本でもエボラ対策が講じられており、福岡県では患者が発生した場合は、福岡東医療センター(指定病床2床)に搬入されることになっており、検疫強化の体制が組まれている。県内4大学も協力体制を敷いており、患者が発生した場合は2次感染の予防に傾注したいと話された。九州沖縄では大分、宮崎、鹿児島の3 県では指定医療機関がなく、九州内でどのように連携協力体制をとるか課題となっている。

○渡航医学

  • 1964年に日本では海外旅行が自由化され、今年で丁度50年にあたる。年間1800万人が海外へ、1000万人が国内に出入する時代になってきた。流行している感染症が国や地域によって異なるのが特徴で、当事国の感染状況を把握することが大事で、知らないことが一番怖い。感染症の内容としては腸チフスや大腸菌等の旅行者下痢症が最も多く、短期の旅行者がかかりやすい。

○トラベルクリニックの現状

  • 大学病院の感染症渡航外来は、企業の海外への長期出張者がワクチン接種目的で受診するケースが全体の半分を占めている。海外渡航者に必要なワクチンは3種類あり、日本で通常に行われているワクチン(Routine vaccine)、黄熱や髄膜炎菌など当時国にとってワクチン接種証明書が必要なワクチン(Required vaccine)とA型肝炎ワクチンやB型、腸チフスなど現地で必要性のあるものを推奨するワクチン(Recommended vaccine)がある。日本では未承認のワクチンもあるため健康被害が生じた場合は救済制度がないことを被接種者から同意を得る必要がある。実際のワクチン接種での注意事項として、女性の場合は問診での「妊娠」のチェックである。問診票で“妊娠の可能性はない”としても必ず最終月経を口頭で聴くようにしている。最終月経から2週間以内であれば接種。“たぶんない”という人には接種せず。“絶対ない”という人には接種。接種する時は、数種類のワクチンを同時接種することも多いため、丸椅子に座った状態で接種すると血管迷走神経反射で失神を起こすケースもあるため、寝かせてから接種するようにしている。ワクチンによる獲得免疫も考慮して、渡航する1か月前までに接種することを推奨している。

○実際の感染症

  • A 型肝炎:途上国での飲水、カキ氷、生野菜等で感染しやすい。下痢、黄疸は必発で、回復までに1~2ヶ月を有する。途上国で生水、生野菜を食べることは自殺行為に等しい。
  • B 型肝炎:ユニバーサルワクチネーション(出生時と生後数ヶ月のワクチン接種)をしていないのは日本のみ。無防備な性交渉、ピアス、入れ墨、タツーなどで感染する。HBVは急性肝炎で終わらずに慢性化することもある。3回ワクチンを接種しても抗体が付かない人もいる。
  • 破傷風:破傷風菌(Clostridium tetani)が病原体。潜伏期は3日から3週間で、後弓反張が特徴的な症状。破傷風トキソイドはトラベラーズワクチンとして必須。アフリカではコモンディジーズ。
  • 日本脳炎:感染したら3 分の1は死亡。東南アジアに多いが、年中蚊が多いため発症しやすい。コガタアカイエカが媒介する。
  • マラリア:1~3週間が潜伏期。世界一周旅行でマラリアに感染し死亡した日本人夫婦も。マラリアは迅速診断キットもある。熱帯熱マラリアは早期診断、早期治療が原則。ハマダラカが媒介。マラリアにはワクチンはなし。
  • 狂犬病:1~3ヶ月が潜伏期、突然近寄ってきた犬にかまれることにより発症しやすい。感染すると致死率は100%。脳炎、錯乱状態に。フィリピンでは年間250名、インドでは年間2万人が死亡している。犬に噛まれてからもワクチンは有効。犬に舐められた程度では発症しないが、傷のある皮膚を舐められた場合は注意が必要。

第257回 9/17 ‘14
「ワクチンの重要性とその限界 そして年齢と耐性菌の現状を考慮した抗菌薬の選択」久留米大学小児科 津村直幹 講師

○小児科受診患者の疾患別受診状況

  • 全国の一部の病院小児科および小児科診療所において受診患者の疾患別内訳の調査を実施したところ、呼吸器感染症56%、その他の感染症17%、感染症以外27%であった。呼吸器感染症の中では、上気道炎69.0%、気管支炎23.4%、耳鼻科領域疾患(中耳炎、副鼻腔炎)5.0%、肺炎2.6%の割合であった。ここ数年来のワクチンの普及による細菌性髄膜炎などの重症感染症の減少があるとは言え、一般小児科の受診状況は、感冒(かぜ)に代表される上気道炎、下気道炎といった呼吸器感染症が相変わらず多いことが証明された。

○年齢別にみた疾患と病原微生物

  • 3ヶ月未満児の発熱は、従来から指摘されているように髄膜炎(B 群連鎖球菌、大腸菌)や敗血症、尿路感染症(大腸菌)などの重症感染症の頻度が高くなる。3ヶ月未満で無熱の咳を伴う場合は、百日咳、クラミジアトラコマティス肺炎を念頭におく必要がある。3歳未満の発熱で、フォーカスが不明な場合は、中耳炎、尿路感染症、髄膜炎、Occult bacteremiaなどを考慮し、起炎菌は肺炎球菌、インフルエンザ菌をまずターゲットにあげる。6歳以上の発熱で、上気道炎特に咽頭扁桃炎では溶連菌が重要で、下気道炎としてはマイコプラズマ、肺炎クラミジア肺炎の頻度が高くなる。

○百日咳

  • 百日咳の症状としては、激しい特有の咳込みだけでなく、球結膜出血や舌小体潰瘍を合併しやすい。近年の百日咳の特徴としては、乳幼児の罹患よりも成人の罹患率が高いことである。2010 年米国カリフォルニア州では、百日咳の集団発生があり、10例の乳児死亡が報告された。百日咳にかかった子どもの約5 割は両親など育児にかかわる人から感染したと考えられた。死亡した10人は全員が生後3ヶ月以下の乳児であった。百日咳は伝染性の強い疾患だが、生後2 ヶ月になるまではワクチン接種ができない。死亡した乳児の多くはその月齢に達していなかった。感染した乳幼児の5 人に1 人は肺炎を発症し、100人に1人はけいれんを起こす。乳幼児の場合、100人に1人の割合で死亡する。百日咳の診断は14 日以上続く咳に加え、発作性の咳き込み、吸気性笛声(Whoop)、咳き込み後の嘔吐の3 つのうちいずれか一つを伴えば、臨床的百日咳と診断する。血清診断はPT(百日咳毒素)-IgG 抗体価のEIA 法を指標にしており、単独で100EU/ml 以上なら確定百日咳と診断している。百日咳の治療としては、生後1 ヶ月以上の乳幼児の場合はCAM(クラリスロマイシン)の15mg/kg 分2、7日間が推奨されている。百日咳のワクチンは現在4種混合ワクチンとして4回接種を推奨されているが、1回不足すると2.25倍のリスク、2回不足では3.41倍、3回不足で18.56倍、4 回不足(全く未接種)だと28.38倍にリスクが増加する。

○変貌する肺炎球菌

  • インフルエンザ菌TypeB(Hib)による髄膜炎、菌血症、重症肺炎といった侵襲性感染症(IPD)は、ヒブワクチンにより劇的に減少した(減少率98%)が、肺炎球菌によるIPD は、60%程度の減少率である。肺炎球菌は現在93 種類の血清型に分類されており、そのうち30 種類の血清型が侵襲性感染症IPD(髄膜炎、菌血症、肺炎)を来たす悪玉菌と言われている。2010年2月に本邦ではプレベナー(PCV7)が導入され2013年4月より定期接種化され、2013年11月には7価の血清型のPCV7から13価のプレベナー13(PCV13)に変更となった。特にPCV7にはなかった19Aという血清型がIPDとして検出される頻度が高かったがPCV13には含まれている。しかしながらPCV13にはない血清型(15A,15C,24F,33F など)によるIPDの報告がある。PCV7 接種完了者に対して、完了2ヶ月以降にPCV13を1回追加接種すること(補助的追加接種)で、PCV7に含まれない血性型6価についても抗体が獲得できる。

○耐性肺炎球菌の抗菌療法

  • 肺炎球菌の薬剤耐性機構は、肺炎球菌のペニシリン結合蛋白(PBPs)に対する薬剤(β-ラクタム薬)の親和性の低下による。2001 年の肺炎球菌の耐性菌分離頻度は、PSSP(感受性菌)35%、耐性菌であるPISP35%、PRSP30%であったのに対し、2012 年の耐性菌分離状況はPSSP50%, PISP40%, PRSP10%で、耐性菌は明らかに減少していることが判明した。これはワクチンによる効果が示唆されている。耐性肺炎球菌(PRSP)に関する薬剤で、MIC が低い薬剤で最も優れている内服の抗菌剤が、カルバペネム系ではオラペネムとキノロン系ではオゼックス、ペニシリン系ではファロム、セフェム系ではメイアクトが推奨されている。

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一般演題「日常診療における小児の中耳炎・副鼻腔炎の治療」宮嶋義巳 院長(宮嶋耳鼻咽喉科)

パネルディスカッション「小児の難治性中耳炎、副鼻腔炎の治療方針を考える」
津村直幹(久留米大学小児科),佐々木宏和(ささきこどもクリニック),三橋拓也(飯塚病院耳鼻咽喉科),宮嶋義巳(宮嶋耳鼻咽喉科),古野貴未(飯塚病院中央検査室 細菌検査室)

第256回 7/24 ‘14
「日常小児外科疾患に対する当科での取り組み」飯塚病院小児外科 中村晶俊 部長

一般講演「重症心身障害児に対する幽門後ルートからの半固形化栄養法の経験」鳥井ヶ原幸博(飯塚病院小児外科)

○重症新生児仮死後(在胎40週3,800g 胎便吸引症候群)の脳性麻痺(CP),精神運動発達遅滞(MR),てんかん(Epi)でフォロー中の10歳男児。
2歳時に胃瘻増設術を行うも、注入したものが口腔内に逆流することがあり、高度の胃食道逆流症(GERD)による誤嚥や栄養障害を認めていた。これまでは空腸から長時間かけてラコールを注入していた。今回は腹腔鏡下胃食道逆流防止術(Nissen 法:噴門形成術)目的で入院。注入時間の短縮、ダンピング症候群、注入部位のスキントラブル等の予防目的で栄養剤を液体食(ラコール)から半固形の栄養剤に変更したところ、注入時間の短縮や便性の改善など明らかな改善を認めた。半固形化栄養法とは、寒天やペクチンといった「固め剤」を使って液体を半固形化して、これを急速に投与する方法である。寒天などで半固形化された市販品(ハイネゼリーAQUA)などが利用可能である。

小児外科疾患としてコモンディジーズである4 つの疾患、外鼠径ヘルニア、停留精巣、急性虫垂炎、腸重積の外科、特に最近進歩の著しい腹腔鏡下手術について手術の動画も交えて解説いただきました。

○外鼠径ヘルニア

  • 小児期の外鼠径ヘルニアは、胎生期における腹膜の鼠径管内への嚢状突出、すなわち腹膜鞘状突起が開存したままでヘルニア囊となり、おもに腸管などの腹腔内臓器がヘルニアを起こす疾患である。外鼠径ヘルニアは自然治癒する可能性は低く、ことに低年齢では嵌頓の危険性も高いため、診断が付き次第手術する方が望ましい。小児の外鼠径ヘルニアの標準的な術式として、従来法はPotts法といい、鼠径部に横切開を入れヘルニア嚢の高位結紮のみ行う方法であったが、近年はLPEC(Laparoscopic percutaneous extraperitoneal closure:エルペック)法という腹腔鏡下での腹膜鞘状突起の内鼠径輪の閉鎖術が行われている。LPEC法の最大の利点は正確な対側検索が可能なことである。臍輪に切開を入れ、従来は腹部に3 カ所ホールを入れていたが、SILPEC(Single Incision LPEC:シルペック)と言って臍部のみの1カ所の切開のみで対処できる方法も編み出されている。従来法に比較し、LPECの利点として、創傷が残らず整容性に優れていること、剥離範囲が非常に狭いこと、臍ヘルニアなど臍形成も同時に出来るのが利点である。昨年(H25)の4月以降現在(H26.6)まで精索水瘤も含めて88例(男児64例、女児24例)の手術を行い、うち64例がLPEC 法、24例にPotts 法が施行された。

○停留精巣

  • 停留精巣は1000人出生当たり7~8人の頻度と言われており、生後3か月以降は自然降下しないため、3か月健診で停留睾丸を指摘されたら手術をする方針を家族に説明する。精巣の温度が大事で腹腔内にあると温度が高くなり、精巣の機能に影響を与える。精巣の機能は男性ホルモン分泌機能と精子形成能があり、父性獲得率と密接に関与する。両側性の停留睾丸は父性獲得率が明らかに低い。停留精巣は妊朶性の問題、悪性化の問題も指摘されているため、術後から2次性徴開始まで定期的に経過観察をする必要がある。また停留精巣で精巣捻転の報告もあり、乳児期に固定術を行うべきである。昨年4月以降の手術症例は11例で、鼠径部に停留例が10例、腹腔内が1例。手術時年齢としては生後7か月時の手術が3例で最も多く、11歳が1例であった。

○急性虫垂炎

  • 腹腔鏡下での虫垂切除は世界的には1983年に始まった。最近は単孔式が主体だが、従来法では3ポート腹部にホールを形成していたが、ポート創にケロイドが残るのが欠点であった。虫垂炎も鼠径ヘルニアと同様臍を起点にするものの単孔式では縦切開を行う。昨年4月以降現在までの手術症例は34例(男児17例、女児18例)で、穿孔性虫垂炎は7例。単孔式の腹腔鏡下手術を行った症例は27例で創外に虫垂を引きずり出して切除。入院期間は非穿孔例では平均3日、穿孔例では平均7.5日であった。

○腸重積

  • 腸重積の治療法として発症24時間以内であれば8割は非観血的整復法で対処できる。手術はHutchinson法があり、重積した腸管を口側から押しだしながら整復する方法である。腸重積の手術も単孔式で腹腔鏡下手術が主体になっている。小腸小腸型腸重積で手術した症例では器質性病変が隠されている症例があり、最近経験した9か月男児の症例は先進部に内翻したメッケル憩室が確認された。

○術後疼痛対策

  • 腹腔鏡下手術が開腹手術に比べ整容性に利点があるとはいえ、術後の疼痛は回避できない問題である。臍部アプローチからの手術が増えたため、腹直筋鞘ブロック(RSB: Rectus Sheath Block)法があり、閉創する前に、内側から外側に向けて局所麻酔剤を腹直筋鞘に局注する方法である。この疼痛対策も向上したことから鼠径ヘルニア等の日帰り手術も促進されている

第255回 6/18 ’14 第37回 筑豊周産期懇話会
「乳幼児期におけるワクチンでの感染症予防〜救急の現場から ヒブ・肺炎球菌・ロタ〜」熊本地域医療センター小児科 柳井雅明 医長

一般演題「新生児低血糖の一例」飯塚病院小児科 嶽間澤昌史

○小児救急「熊本方式」

  • 柳井雅明先生が所属する熊本地域医療センターは熊本市医師会立の病院で、熊本市と近辺の休日・夜間の小児救急外来を行っている救急拠点病院である。そこでは、「医療センター(医師会病院)小児科」、「開業小児科医」と「熊本大学病院小児科」が三位一体となり病院併設型の小児初期および2次救急医療体制を構築しており、「熊本方式」と言われる小児救急医療体制である。総勢70余名の地域の小児科医が参加して、年間約22,000人の夜間休日の小児初期救急医療を行っている。熊本県下では、3次救急の重篤小児患者はPICU(小児ICU)が完備した熊本赤十字病院に集約するという体制になっている。

○救急外来の現場から
~「予防に優る救急医療なし」と認識させられた2 症例~

  • 〈症例1〉インフルエンザ菌の喉頭蓋炎で死亡した4歳男児
    • 2008 年1 月○日、同センターの夜間救急外来に4歳の男児が受診した。その日の夕方まで家族で外出し走り回るくらいの元気だったが、夕方から少し咳き込み方などに異変を感じ夜9時前に受診。約1時間の待ち時間の後、午後10時頃診察が始まったが点滴・検査の最中に急激に呼吸が悪化し、深夜12時頃母親の胸に抱かれ、「ママ」と声を振り絞ったまま心肺停止になった。受診してからわずか3時間での出来事。蘇生できたものの意識が戻ることなく3日後に死亡した。Hib 感染の急性喉頭蓋炎による窒息死であった。担当医は「ヒブワクチンが導入されていないのは日本くらいだ」と無念の言葉を吐いた。
  • 〈症例2〉ロタウイルスによる重症脱水でショック死した9か月男児
    • 早産低出生体重児(在胎33 週1818g 出生の双胎児)で10人きょうだいの第9子。ワクチン接種歴はヒブ・プレベナー・4 種混合は2回済、BCG 済、ロタワクチンは未接種。2013年2月○日嘔吐下痢がみられ、かかりつけ医受診、ロタウイルス腸炎の診断で整腸剤を処方された。2日後嘔吐はおさまったものの下痢は1 日7~8 回と持続し、経口摂取も普段の1割程度と少なかった。発症から3日目の朝、ぐったりしていたため、かかりつけ医を再受診。脱水によるプレショックの状態と判断され、同センターに救急車搬送。同院到着時は下顎呼吸の状態で間もなく心肺停止(CPA)に。ドクターヘリを要請し、3次病院に搬送。CPA から70分後に心拍再開しPICU 管理となったものの3時間後に死亡。この9ヶ月の男児はロタウイルスワクチンを接種しておらず、「ワクチン接種を受けていれば」と悔やむ症例であった。

○ヒブと肺炎球菌

  • 本邦では2008年12月にインフルエンザ菌(Hib ワクチン)が、2010年2月に肺炎球菌ワクチン(PCV7)が導入された。2011年に両ワクチンの公費助成が開始されてからは乳幼児の細菌性髄膜炎を始めとする重症感染症が、小児の初期救急医療の現場でも明らかに減少していることが全国的に証明されている。同センターでの2大起炎菌による重症感染症の発生動向として、Hibの重症細菌感染症は約3年間発生なくワクチンの効果が実証された。肺炎球菌髄膜炎は、年少児での発生は約3年間ないがワクチン未接種の年長児の髄膜炎発生が2例にみられている。
  • 海外においてもHib ワクチンの普及後全体の症例数は激減したが、Hib以外の莢膜型とnon typable H.influenzae(NTHi)が侵襲性インフルエンザ菌感染症の主体になってきている。インフルエンザ菌の重症感染症が乳児期にピークがみられるのに対し、肺炎球菌の重症感染症の好発年齢はインフルエンザ菌よりも有意に高く、年長児でも油断はできない。さらに7価の肺炎球菌ワクチン(PCV7)の血清型に含まれていない血清型(特に19A型を含むPCV7非カバー菌)が髄膜炎や菌血症の重症感染を引き起こす型になっている。そのため我が国では2013年11月より、19A型を含んだ13 価のワクチン(PCV13)への切り替えが進められた。PCV13の定期接種の徹底に加えて、PCV7接種済者に対する補助的追加接種が重要と考えられる。

○ロタウイルス感染症

  • ロタウイルス感染症は、先進国でも発展途上国でも関係なく入院が必要な下痢症の原因として最も多くみられる疾患であり、全胃腸炎入院のおよそ4割を占めていると言われている。本邦では2011年11月にロタウイルスワクチンが導入された。単価のロタリックスと5価のロタテックの2種類があるが、任意接種であるためワクチン接種率は未だに低迷している。その理由は疾病負荷の過小評価や低い認知率、高価なワクチン費用で自己負担が大きい(ロタリックスは2回接種で27,000円程度、ロタテックは3回接種で27,000円程度)ということがあげられる。同センター病院で、ロタワクチンの効果として入院患者数を調査したところ、導入後ロタ腸炎での患者数が25%減少したことが判明した。また嘔吐下痢症といった胃腸炎だけでなく、下痢けいれんや脳症といった神経合併症が10%程度認められた。そして最近2年間のロタウイルス感染症入院患者の97%がワクチン未接種者であったという。一方ロタウイルスワクチンによる副反応として、腸重積症が知られている。4価のロタシールドは発売後腸重積の合併が多く使用中止となったが、現在市販されている1価(ロタリックス)と5価(ロタテック)のワクチンの世界各国の市販後調査で、ロタウイルスワクチンによる腸重積症のリスクがわずかではあるが増加する(10万人接種当たり0.7~5.4人の増加)ことが示唆されている。それでも腸重積のリスクよりも死亡や入院を抑制できる接種の利益の方が大きく、米国(CDC)ではロタウイルスワクチン接種を強く推奨している。我が国ではロタウイルスワクチンの接種率は海外に比較してもまだまだ低く効果は限定的であるため早期の定期接種化が望まれる

第254回 5/21 '14
「日本におけるワクチン、これからの課題〜ロタウイルスワクチンとB型肝炎ワクチンを中心に〜」外房こどもクリニック・千葉大学医学部 黒木春郎臨床教授

一般演題「印象に残った症例の報告」飯塚病院小児科研修医 柳垣 充/石川 太平

1. B 型肝炎ワクチン

  • ○疫学
    • 全世界では20億人以上の人がHBVに感染、そのうち約3億5000 万人が慢性的に感染し、毎年60万人がHBV感染による疾患(肝硬変や肝がんなど)で死亡していると推測される。日本ではHBVの持続感染者は110~140万人存在し、急性B型肝炎に罹患し入院するケースは年間1800人程度で、軽症や潜伏感染も含めると年間5000人以上の新規感染者がいるものと想定される。
  • ○B 型急性肝炎の実態
    • 母子感染防止事業が開始された1985年以降も、急性B型肝炎の発生率は増加している。母子感染のみの防止事業だけでは発症を減らせない。HBVのジェノタイプとして、以前はC型が多かったが、近年は欧米に多いとされるA型が増えてきており、特に性行為感染症(STD)としての水平感染が話題になっている。このA型は成人になって急性肝炎として発症するだけでなく、慢性化しやすいタイプが増えてきている。
  • ○B 型慢性肝炎の実態
    • 母子感染防止事業後、キャリア化したHBV感染の感染経路別としては、垂直感染としての母子感染が65%で、これは母子感染の対策漏れや胎内感染によるものと思われる。水平感染は35%あり、うち父子感染が24.5%、きょうだい間感染が3.5%、その他保育園や幼稚園などでの集団生活の場で、キャリアの園児の唾液や汗などからも感染しやすいことが判ってきた。母子感染防止事業の接種スケジュールが2014年3月から変更となり、旧スケジュールでは、生後2,3,5か月時に3回のワクチン、出生時と2か月時に抗HBS人免疫グロブリンを2回打っていたのが、新スケジュールでは、生後0,1,6 か月時に3回のワクチン、免疫グロブリンは出生時(生後12 時間以内)に1回のみに変更になった。
  • ○セレクティブワクチネーションからユニバーサルワクチネーションへ
    • 日本における母子感染防止を中心にしたセレクティブワクチネーションは一定の効果はあったものの、HBV感染の根絶には至っていない。感染した場合は、若い年齢程キャリア化、慢性化しやすい。ワクチンの接種年齢が低い程、抗体価の上昇も良いため、これからはユニバーサルワクチネーションが推奨されている。この接種法は、疾患や感染リスクの有無に関わらず、予防を目的として全員にワクチンをすることである。HBVワクチンの世界標準はユニバーサルワクチネーションで、出生時に1回目のワクチンを打つ必要がある。2011年現在WHO 加盟国の193か国中の180か国が既にHBV のユニバーサルワクチネーションを行っている。

2. ロタウイルスワクチン

  • ○ロタウイルス感染症の実態
    • ロタウイルス感染症は、少なくとも5 歳までにはほぼ全員が一度は感染する非常にコモンなウイルス感染症である。衛生状態が良くても感染状況に変化なく、途上国でも先進国でも同様な状況である。
  • ○ロタウイルスワクチンの開発
    • ジェンナーが開発した種痘は、牛痘に罹った人は天然痘には罹らないことを証明した。動物由来の病原体をヒトのワクチンとして使用することをジェンナー式アプローチという。元来動物ロタウイルスはヒトには弱毒性であり、動物由来のワクチンを打てばヒトに対する免疫原性を誘導する可能性がある。1998年、サルとヒトのワクチンを組み合わせたワクチンを変法ジェンナー法として、4価のワクチンである経口生ワクチンである「ロタシールド」を発売したが、腸重積の発症が多く、1999年には使用中止に至った。その後ウシとヒトのロタウイルスワクチンである5価のワクチンを開発し、米国では経口生ワクチン「ロタテック」が2006年に定期接種化し導入されて以降は、ロタウイルスの感染者が減り、入院症例も激減した。そしてロタイウルスワクチン導入のインパクトとして集団免疫効果(herd immunity)が実証された。乳児期にロタワクチンを接種することにより、接種した人ばかりでなく、接種しない人の感染が減り、年長児のロタ感染が減り、さらには成人の感染も減ってきたことが証明された。この事実を集団免疫効果という。米国では今やウイルス性の感染性腸炎と言えば、ロタ腸炎よりもノロウイルスが代名詞になってきた。

○まとめ&感想

  • HBVワクチンもロタウイルスワクチンも現在の日本では定期接種ではなく任意接種のワクチンである。しかしながら自治体によっては公費助成を行っているところもある。黒木先生が開業されている千葉県いすみ市では、両ワクチンだけでなく水痘ワクチン、ムンプスワクチンも全額公費補助(ワクチン無料化)となっている。医療側と市民が動き、市長を動かしてトップダウンの裁定を下したものだが、子育て支援の一環として、若い世代を地方に呼び寄せる方策でもあるという。クリニックでは医師とメディカルスタッフが連携してワクチンの重要性を保護者や子どもたちに認識させ、クリニック全体がワクチンを勧める体制になっているという。「聖医は未だ病まざるを治す」、この言葉はわが国の種痘の始祖緒方春朔の言葉である。緒方春朔はジェンナーに先立つこと、6 年前に日本人で初めて種痘に成功した医師である。予防医療の概念が医療の創生期から存在していたことを示す貴重な言葉である。病気を治す医療も大事だが、病気にならないように予防することの重要性を認識させられた素晴らしい講演でした。

第253回 5/14 ’14 第33回 筑豊感染症懇話会
「重症尿路・性感染症の話題〜尿路敗血症を中心に〜」福岡大学医学部泌尿器科学教室 田中正利 主任教授

一般演題「小児の重症反復性尿路感染症の2例」赤岩 喬(飯塚病院家庭医)

○敗血症、SIRS、DIC とは?

  • 敗血症の定義(日本集中治療医学会による)は、感染によって発症した全身性炎症反応症候群(SIRS)を指し、infection-induced SIRSが敗血症である。SIRSの定義は、①体温:発熱(>38 度)または低体温(<36 度)、②心拍数:頻脈(>90 回/分)、③呼吸数:多呼吸(>20 回/分)またはPaCO2<32Torr、④末梢血白血球:増加(>12,000/ul)または減少(<4,000/ul)あるいは幼弱白血球:>10%以上の4 項目のうち2 項目以上が該当する場合をSIRSと定義する。SIRS は高サイトカイン血症の病態をさす。敗血症(Sepsis)は細菌感染による菌血症だけでなく、SIRS の基準を満たすウイルスや真菌、寄生虫感染もあり注意を要する。
  • 重症敗血症とは、臓器障害や臓器灌流低下または低血圧を呈する状態を指す。さらに敗血症性ショックとは、十分な輸液負荷を行っても低血圧が持続する病態を指す。(低血圧の指標としては収縮期血圧<90mmHg、または通常血圧よりも>40mmHg の低下を指す。ただし循環作動薬投与時の低血圧は不問)DIC(汎発性血管内凝固症)の診断基準は、SIRSの点数と血小板数、PT 比、FDPの4 つの指標から、4点以上はDICと判断する。炎症反応の指標としては白血球数とCRPだけでなく、PCT(プロカルシトニン:>0.5ng/ml、重症敗血症>2.0ng/ml)やサイトカインであるIL-6(重症敗血症>1,000pg/ml)も指標となる。臓器障害の指標は、低酸素血症、急な尿量減少(乏尿)、クレアチニンの上昇、凝固異常、イレウス、血小板減少、高ビリルビン血症があり、臓器灌流の指標としては高乳酸血症(>2mmol/l)と毛細血管再充満時間(CRT)の延長またはまだらな皮膚がある。

○尿路敗血症の疫学

  • 尿路敗血症の頻度は全敗血症の14%程度を占め、尿路敗血症での死亡率は30%程度であり、全体の死亡率が54%からすると比較的予後はよい。基礎疾患としては、尿路結石症が最多で全尿路敗血症の43%を占める。尿路敗血症を来たす病態としては、80%が尿路閉塞で、20%は尿流動態の異常である。死亡率が高い因子としては、DIC を合併した症例、80 歳以上の高齢者がある。原因菌は、グラム陰性菌が8~9 割と多く、そのうち大腸菌が最多で、プロテウス菌、クレブシエラ菌が続く。複雑性尿路感染症の起炎菌としてキノロン耐性菌が30%、ESBL産生菌が5%の割合になっている。

○尿路敗血症の診断

  • 尿路感染としての自覚症状(発熱、血尿、膿尿、乏尿、腹痛など)とSIRSによる診断基準(体温、心拍数、呼吸数といったバイタルサインと白血球数)、採血、検尿と同時に血液培養(2セット以上)と尿培養の確認。画像検査、補助診断としてプロカルシトニン(PCT)も有用である。重症敗血症になると、炎症性サイトカインの刺激により全身臓器でPCTが産生され、CRPよりも早い時間で反応するため有用な検査である。PCTが高い程、血液培養陽性になる時間も早い。CRPの保険点数は16点なのに対し、PCTは320点にてかなり高価な検査であることに留意すべきである。近年高齢者では、経直腸的前立腺生検後に尿路感染症を合併するケースが増えてきているという。尿路結石は大きさが一つの目安になるが、発熱なく、検尿で白血球尿がなければ一般の内科でも経過観察としてよいが、発熱と排尿痛があれば泌尿器科に紹介した方がよい。

○尿路敗血症の治療

  • 尿路敗血症の治療は、抗菌薬投与とドレナージ療法がある。抗菌薬投与は尿路感染症の診断がついてから1 時間以内に開始すべきで、初期の抗菌薬としては広域のPIPC/TAZ(ゾシン)やカルバペネム系抗菌薬であるMEPM(メロペン),IPM(チエナム)やアミノグリコシド系AMK(アミカシン)から始めて、起炎菌が判明すれば狭域の抗菌剤に変えていくという、いわゆるデエスカレーション療法が推奨される。尿路感染症はデエスカレーションが行いやすい疾患でもある。泌尿器科的な侵襲的治療としては、尿管ステントの留置や膿腎症に対してはエコー下に腎瘻によるドレナージが有効である。発熱があり、SIRSの基準を満たし、CRP上昇例で閉塞がある症例は全例ドレナージをした方がよい。

○まとめ

  • 成人の尿路感染症は、常に尿路敗血症を意識しながらの診療が必要である。診断の際は、SIRS,DICの基準を用いて体系的に評価すること。炎症反応の指標としてはPCTも有用。尿路敗血症の原因としては尿路結石による尿路閉塞性疾患が最も多く、起炎菌は大腸菌が多いものの、近年ESBL 産生菌が多くなってきている。抗菌剤の投与法としては広域で強力な抗菌作用のある抗菌剤を最初から投与し、起炎菌が判明したら狭域に変えるというデエスカレーション療法が有効である。小児の尿路感染症は、膀胱尿管逆流症(VUR)が最も多く、それに伴い、近年はAFBN(急性巣状細菌性腎炎)という概念が幅広く浸透し、診断の根拠としての造影CT の有用性が高いという状況である。しかしながら小児の場合、「尿路敗血症」を意識しての診療は少ないと思われるが、今回の講演を通して、重症化の指標としてSIRS やDICを常に意識した感染症対策が必要と痛感した。

第252回 4/23 ’14 総合周産期母子医療センター設立 記念講演会
「福岡大学病院総合周産期母子医療センターと小児医療センターのご紹介」福岡大学小児科 廣瀬伸一 主任教授

○福大病院周産期医療の歴史

  • 福大病院は昭和48年に開院し、平成2年にNICU3床から周産期医療がスタートした。平成9年にはNICU6床となり、平成10年12月1日に福岡県内で初めての「総合周産期母子医療センター」に指定された。当時の病床はNICU9床、GCU20床、MFICU7床という陣容であった。平成23 年1 月4 日には福大病院新館が建立し、センターはさらに拡大し、NICU15床、GCU30床、MFICU7床とさらに規模が拡大された。この新館のセンターの特徴として、クベース毎に天井から吊り下げられた照明や医療器具が置けるシーリングペンダントが設置されたこと、周産期センター内で手術が可能となる手術室を設けたことで、安全性と利便性がより向上した。

○福大周産期センターの統計

  • 平成25年のNICU 入室数は院内出生が200例(71%)、院外出生から転送になったケースが82例(29%)であった。うち4例は未熟網膜症治療の目的で転院となった。出生体重1000g未満の超低出生体重児(ELBWI)は32例、1500g未満の極低出生体重児(VLBWI)は27例、2500g未満の低出生体重児(LBWI)は113例、2500g 以上は110例であった。人工呼吸器を装着したケースは84例(全体の30%)、脳低体温療法を施行したケースは3例であった。同年の最小体重児は24週2日545gの赤ちゃんで神経学的後遺症なく順調に育っている。近年は超低出生体重児が増加しているのが特徴である。なおセンターの専任の医師は9名でうち周産期学会専門医が5名いるのが強みである。看護師数は76 名である。医療器具としては人工呼吸器12台、N-CPAP6台、脳低体温療法の機械を1台常備している。

○小児医療センターの紹介

  • 平成23年1月に新築された福大病院新館の4階部分が「総合周産期センター」(NICU15床、GCU30床の全45床)、5階が「小児センター」(小児内科系38床、外科系25床)であるが、福大病院の全病床数900床のうち108床が小児専用病床となっており、小児の占める割合は全国の大学病院の中でもダントツ高い。診療報酬上小児科の医業収益としての採算性は高く、全科の中でも3番目に高いという。小児医療センターの入院の内訳としては、感染症の入院が減ってきているのに対し、新生児上がりの基礎疾患を持つ児が多く、レスピレーター使用例は明らかに増えてきている。小児の入院数は年間1300例で、百道の急患センター経由が202例(全体の16%)であったが近年では救急搬送件数が増加している。
  • NICU では救命はできたものの障害を残す低出生体重児もいて、NICUの後方病床を小児病棟とすることで、多くの職種が障害をもつ児の周りに集まり、手をかけてあげることで、NICUに長期間滞在するよりも病棟に早期に転棟した方が、発達は格段に向上する。

<一般講演>

●「新生児部門の現状と今後の展望ー極低出生体重児、新生児仮死を中心にー」飯塚病院総合周産期母子医療センター 新生児部門(原田英明 管理部長)

  • 平成25年1月、新築された北棟5階にNICU9床、GCU12床の計21床の新しい新生児センターが移転。4人の専任医師と看護師の他に、臨床工学技士や医療秘書、臨床心理士が専任で配属されており、ソーシャルワーカーも含めて多職種連携がなされている。平成25 年のセンターの統計として、入院数270例で、うちELBWI 9例、VLBWI 20例、LBWI 159例で、在胎週数28週未満が8例、人工呼吸管理施行例が84例、死亡例1例、低酸素性虚血性脳症が2例であった。6ヵ月以上の長期入院児はなく、障害を残した児は在宅医療に移行できている。ハイリスク新生児の予後を改善するためには、産科部門との綿密な連携、症例の蓄積と分析、新生児心肺蘇生法(NCPR)講習の実施、脳低体温やNO吸入療法の実施がポイントとなりうる。

●「産科部門の現状と今後の展望ー切迫早産、合併症妊娠についてー」飯塚病院総合周産期母子医療センター 産科部門(後藤麻木 管理部長)

  • 産科部門は北棟6階にあり、一般24床とMFICU6床の計30床である。医師8名、助産師30名で対応。他院からの紹介は約6割、未受診妊婦は2013年では4 例のみで年々減少中だが、高齢出産が急増しており、ハイリスク妊娠が増加してきた。また帝王切開率は現在40%程度で年々増加している。なお筑豊地域での分娩完遂率は98%以上と高率を維持している。現在分娩に関しては妊娠週数の規定はない。

●「小児外科部門の現状と今後の展望ー先天性腹壁異常を含めてー」飯塚病院総合周産期母子医療センター 小児外科部門(中村晶俊 部長)

  • 日本全国における新生児外科の症例は年間およそ3800例程度である。昨今は食道閉鎖や小腸閉鎖、十二指腸閉鎖などは腋窩や臍部のしわ切開等の工夫により傷が目立たない手術が主流になってきている。先天性腹壁異常としての腹壁破裂はサイロ形成術が主体になっている。先天性横隔膜ヘルニアは救命率も向上してきている。しかしながら当院での新生児外科症例は少ない。当センターでの周術期管理は可能であり、出生前診断での小児外科医によるプレネイタルビジットを積極的に行い、症例を増やしていく必要がある。

第251回 3/20 ’14 総会
「大学病院救命救急センターでの重篤小児診療の取り組みと現状〜重症感染症・急性脳症・重篤外傷の診療を通じて〜」九州大学病院 救命救急センター助教 賀来典之

一般講演「飯塚病院における重症児のICU ケアの現状」飯塚病院 小児科 岩元二郎


○はじめに

  • 「小児救急」には2 つの側面がある。圧倒的多数の軽症小児患者の時間外診療を行う「夜間・時間外診療」と圧倒的少数の高次医療を必要とする患者を受け入れる「救命救急」がある。「夜間・時間外診療」を含む一般小児科診療では、病態聴取→身体診察→鑑別診断・検査→治療といった流れになるが、3 次救急およびPICU では、トリアージ(緊急度の決定)→患者の安定化(Stabilization)→鑑別診断・情報収集→治療が大事で、救命という視点から一般診療の要領とは大きく異なる。Plan→Do→See の繰り返し、急変時やICU マネジメントではリーダーシップが大切となってくる。

○日本の小児集中治療の現状

  • 日本では様々な施設・病床で小児の集中治療が行われているが、PICU(小児ICU)を有する施設は全国的にも20 施設以下と少なく、重篤小児の25%が一般病棟などのICU 外で診療されているのが現状である。特に1~4 歳の病院内死亡の56%は、小児死亡が少ない病院(死亡数が年に5 人以下)で発生しているという。また“小児の不慮の事故死”は、PICU のある都府県ではそれ以外の地域より有意に低いというデータもある。重篤小児の死亡率は、複数ICU に分散した地域より、PICU に集約化した地域で有意に低い。ただしPICU がICU よりも優れているというよりも、重篤小児管理に習熟した環境への集約化が重要で、小児重症患者の救命には小児集中治療施設への患者集約が必要である。

○九州大学病院救命救急センター

  • 九州大学病院(病床数1275 床)の救命救急センターの歴史としては、昭和52 年救急部が設置され、平成18 年救命救急センターを開設、そして平成25 年に厚労省指定の「小児救命救急センター」が救命救急センター内に設置された。
  • 同センターの集中治療部には、院内ICU が10 床(主に術後・院内急変患者)、救命ICU が10 床(救急外来からの入室)、HCU10 床、CCU10 床という割合で、全部で40 床を有していたが、平成25 年5 月に「小児救命救急センター運営事業」の施設に認定されてから、院内ICU と救命ICU の一部の病床を譲り受け、小児集中治療室(PICU)6 床が稼働した。救命救急センターのスタッフは、常勤医が21 名でうち小児担当が5 名、麻酔科や外科・整形外科医など多くの関連診療科の医師が関わるが、小児担当医は小児専従ではなく、成人・小児両方にも対応し、重篤小児は小児担当オンコールが中心に対応する。そして地域メディカルコントロール事後検証会議にも参加する。とくに小児の交通外傷による多発外傷は多くの診療科の迅速な対応が必要となるが、小児担当医は初期診療のリーダー・コーディネーターとしての役割を担っている。成人ICU と同じセンター内にPICU がある利点としては、小児担当医は、稀な重症外傷やCPA 症例への対応を成人例で多く経験できるのが利点である。また小児でPCPS やIABP を装着・管理する場合、看護師や臨床工学技士は成人例での経験が多く、稀な小児例にも対応は可能である。

○「小児救命救急センター」としての九大病院PICU

  • 平成22 年厚労省は、小児の「超急性期」の救命救急医療を担う施設を「小児救命救急センター」として必要な支援を行う事業を開始した。平成26 年現在、全国では8 施設、九州では熊本日赤病院に続き九大病院が認定され、共に年間300 例程度がPICU での症例数である。事業として指定された年の平成25 年の年間PICU 入室数は全296 例で、およそ半数が九大病院内の「術後・院内急変」例で、発生場所から九大病院「直送」例が85 例、他医療機関からの「転院搬送」が60例であった。
  • 医療機関からの紹介で転送されたケースの疾患分類としては、脳神経系>呼吸器系>循環器系>外傷>内因系その他であった。紹介のタイミングとしては循環器系は早く、脳神経系が遅いというデータを得た。転院搬送の搬送元は福岡地域が全体の85%と圧倒的に多く、特に筑豊や筑後地区は紹介搬送が少ない傾向にあった。

○小児の救命率向上のために

  • 救命の連鎖として、病院前救護(メディカルコントロールによる搬送基準の整備)→搬送と集約化(患者・ヒト・モノの集約、初期診療の向上と安全な搬送)→集中治療(小児担当医と救急医の協働)といった一連の流れをシステム化し、かつ中身を充実したものに作り上げていかねばならない。しかしながら集中治療後の「出口問題」も同時に考えていく必要がある。PICU に転送されたものの搬送元へ転院ができていない実態もあぶり出された。集中治療を終えた子どもたちはどこへ行けばいいのかという後方病床の問題。さらに救命はできても障害を残した子どもたちが退院した後、誰がみていくのかという在宅医療やスパイト等の問題も急性期と同様に慢性期を見定めた視点を持ちながら、誰もが安心できる小児救急医療体制を構築する必要がある。

○おわりに:キーワードは「集約化」

  • 重篤小児の救命に関しては、PICU のある施設への「集約化」が大事であるが、患者だけでなく、ヒト(医療従事者)・モノ(医療資機材)も「集約化」し、集約のための患者搬送体制を確立する必要がある。またこの「集約化」を阻害する因子として「壁」が存在する。特に福岡県においては、4 つの大学があり、大学医局の壁、病院間の壁を超えること、また地理的な県境の壁を超えることが重要であることを強調された。重篤小児の救命の最後の砦であることを認識しつつ、2 次医療機関からの「転院搬送」を今後重点的に伸ばして、九大病院PICU への集約化を啓発していきたいとの強い思いを語られた。

第250回 2/26 ‘14
第36回 筑豊周産期懇話会

演題1「周産期チームの連携についての考察」~出生前に障害を告知されている両親に対しての関わりを通して振り返る~
飯塚病院 総合周産期母子医療センター 産科部門 伊藤詩織
演題2「後産期出血量が1000ml 以上となった経膣分娩例に関する検討」~一次分娩施設における後方視的解析からみえてくるもの~
田中クリニック 松田 千穂美(看)、兼安 有美(看)、河野 雅洋先生
演題3「お母さん・家族が求めるペリネイタルケアとは〜症例をもとに考える〜」
飯塚病院 総合周産期母子医療センター 産科部門 藤田起代美
レクチャー「新生児蘇生法(NCPR)の最新の知見と当院での取り組み」飯塚病院 総合周産期母子医療センター 新生児部門 原田 英明

第249回 1/23 ’14

「発達障害に優しい地域社会をめざして」久留米大学小児科 山下裕史朗 教授


一般演題「当院におけるイーケプラの症例」飯塚病院 小児科 近藤 里香子


○発達障害の有病率

  • 2012 年の文部科学省調査では、発達障害のために特別な教育上の配慮が必要な子は、通常学級に在籍する生徒の6.5%(約70 万人)いて何らかの支援を受けているのは6割程度。自閉症スペクトラム障害(ASD)は1~2%、AD/HD が3~5%、学習障害(LD)が1~2%と推定され、多く見積もって全体の1割に発達障害が認められ、多くが成人まで持ち越すと言われている。

○高校・大学教育が大きく変わる

  • 平成22年より大学センター試験では発達障害の生徒に対して受験特別措置が取られている。ASD、AD/HD、LD の医師による診断書、高校校長からの意見書があれば、試験時間の延長や拡大文字問題冊子、別室の設定など、受験生に優しい特別措置が取れるような時代になってきた。そして入学者に対する責務を大学側が負うことになり、入学させた以上教育する責任があり、発達障害を理由に不合格にすると将来は差別として訴えられる可能性がある。

○久留米STP(Summer Treatment Program)

  • AD/HD児の包括的治療プログラムとして、夏休みを利用して久留米市の小学校で2週間のデイキャンプを行っている。2005年から毎年夏休みに開催してこれまで9回実施し、AD/HD児200名以上の参加で一人のドロップアウトもない。医療・心理・教育専門家の指導のもと、研修を受けた大学生カウンセラーが、子ども達の行動修正を行う協働プロジェクトで、全国から見学もあり新しい発達障害児支援の地域モデルとなっており、久留米ST の指導のもと島根県や岐阜県でもSTPがスタートした。

○STP の行動療法プログラム

  • STPにはソーシャルスキルを磨くために、わかりやすく、やる気の出るシステムとプロブラムがある。活動は10~15分を1 インターバルとして設定しており、すべての活動には「決まり」がある。「決まり」を活動の初めに繰り返し確認する。「決まり」を守るとすぐにポイントがもらえ、破るとすぐにポイントが減る。場合によってはタイムアウトもある。構造化として視覚的にわかりやすい掲示をし、適切な指示の出し方でやる気を高める工夫がなされている。がんばりカード(DRC)、個別の学習課題や班での教えあい学習があったり、カウンセラーからの働きかけもある。このSTP に参加した児童およびその保護者に対するアンケート調査では、行動面や認知機能など短期効果が確認されている。

○発達障害者の就労の問題

  • しっかり働ける若者になるための重要なことは、生活リズムがしっかりしていること、早寝早起き、遅刻・欠席がないこと。1日を通して働ける体力があること。朝の挨拶、返事、できない時に助けを求める、お礼が言えるなどのコミュニケーション力を磨くこと。お手伝いができて家族から感謝されるようなことをすること。ルールが守れて、清潔への意識があり、身だしなみがしっかりできること、ストレス発散法や余暇の過ごし方が上手にできるようにするなど、幼少時からの日常生活訓練をしっかりトレーニングしていくことが卒業後の就労をスムースにすることができる。

○カリスマ大人になろう

  • こどもの困難に早期に気づき、常に寄り添い、支援するおとなの存在が重要。時に厳しく諭し、導く立場でもある。保護者、祖父母、保育士、教師、近所の人など誰でもカリスマ大人になれる。

○おわりに

  • 山下教授は、就学後、卒業後も生涯を通じて相談・支援ができる久留米こどもセンター(仮称)を設置することが悲願であるという。そこでは教育機関、既存の療育機関やNPO、親の会と連携するためのコーディネーターを育成したり、ペアレントトレーニングやソーシャルトレーニングを提供できる施設、巡回チームの保育園や幼稚園、学校への派遣なども含め、指導的人材の確保、若手の教育等を目標にしながら、発達障害のこどもたちのQOL(命の輝き)を高めていきたいと熱く語られました。