勉強会一覧 原則として1月と8月はお休みです。

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2016年の勉強会一覧(敬称略)

第283回 11/29 '16 (第43回 筑豊周産期懇話会)

演題(敬称略)
「第1子を育児放棄した母への妊娠期からの関わり」橋本聖子(田川市立3F東病棟)
「当院における助産師外来の報告」井上 史(社保田川西1病棟)
「夜間に発症した分娩子癇の1例〜1次分娩施設での対応と周産期センターとの連携〜」
「帝王切開DIC,心不全,肺水腫を起こしたA氏のケアー最適ケアを提供するための多職種との連携についてー」中島真純(飯塚総合周産期産科助産師)
「当院で過去5年に起きた墜落分娩の検討」倉田浩昭(田川市立児)
「当院における特定妊婦とその出生児の転記〜第2報〜」酒井さやか(飯塚児)

レクチャー
「母体救命のための当院での取り組み」今岡咲子先生(飯塚病院 産婦人科)

第282回 11/22 '16
シンポジウム「これからの病診連携を考える〜アレルギー疾患〜」

アトピー性皮膚炎 千葉貴人(飯塚病院皮膚)
気管支喘息 向井純平(飯塚病院児)
アレルギー性鼻炎 田中祥一郎(飯塚病院児)
食物アレルギー 牟田広実(いいづかこども診療所)

第281回 11/15'16
「若年者の結核」大塚 悟(福岡ゆたか中央病院呼吸器科部長)

講演「子宮頸がん予防ワクチン関連の協力型病院としての動向」岩元二郎(飯塚児)

第280回 10/27 '16
「個性派の子どもたちの自立を小児科医が支援するー育児支援、教育との連携、就労まで」北九州市立総合療育センター小児科 河野義恭

講演「当院におけるイーケプラ単剤投与のまとめ」岩元二郎(飯塚児)

 河野先生は、昭和58 年より北九州総合療育センターに勤務され、本年(平成28 年)3 月に定年退職 されました。もともと小児神経をご専門にされていますが、13 年前からは発達障害に特化した診療をな されてきたそうです。数多くの発達障害児の診療を通して、発達特性を持った個性派の子どもたちをど う支援したらよいのか、そのエッセンスをお話ししていただきました。
○13 年間の発達障害の診療で考えてきたこと

  • ①自閉スペクトラム症とADHD、LD の併存をどう捉えるか
  • ②言語表出や理解で、追い付いてきた子どもたちは何だったのか
  • ③知的障害と発達障害は分けて考えられるのか
  • ④これだけの子どもたちが「発達障害」を抱えているのなら、さまざまな社会問題の背景になっている のではないか
  • ⑤発達障害とは固定する「障害」なのか、「個性」なのか
  • ⑥さまざまな既知の障害、疾患でも発達障害の視点での理解・支援が必要なのではないか
  • ⑦はたしてグレーゾーンという捉え方でよいのか
  • ⑧発達障害の中核障害、中心症状とは何か

○小児科医の目の前にあるテーマ

  • 発達障害は子ども、大人、社会のありとあらゆる問題に関わっており、小児科医が子育て支援と将来 への自立に向けた支援に関わることは、避けては通れない最大の課題になってきている。発達障害の診 断は決して難しいものではなく、早く気づき、見方・考え方を変えていく必要がある。子どもたちの抱える難題も、見方を変えることで原因を解明しやすくなる。例えば、突然動けなくなったり、しゃべれ なくなる、フリーズ(Freeze)した状態は、静かなるパニックと言ってよく、気づかれにくい深刻さを 示している。このフリーズは場面緘黙の子に多い。また以前に先生に叩かれた時などの記憶は、フラッ シュバック(Flashback)となり、次々とタイムスリップし、時間を超えた怒りや恐怖、パニックを呈す ることになる。また抑圧(Repression)という状態は、安心・安全の状況の中にこそ、感情が表出しや すい点を理解することが必要である。緊張した状況下では恐怖心を無意識的に抑圧してしまい、緊張が解けた状態になるとパニック状態になりやすい。たとえばDV の父親のもとで一緒に生活している間は、 おとなしくてよい子を演出するが、母親のもとに帰されてからパニックや夜驚症などの問題行動が頻発 しやすい。
  • 爪かみをする、落ち着きがない、友達とトラブルを起こしやすい、こだわりが強いなどの気になる行 動は氷山の一角であって、水面下(背景)には必ず原因がある。学校生活に不安を持っていたり、いろ んな刺激に反応しやすかったり、相手の意図が読めなかったりなど、不安や混乱が強くなっている状況 があることを理解してあげることが大事である。

○発達障害の中での連続性・併存性

  • アメリカ精神医学会のDSM-Ⅳでは、広汎性発達障害は知的障害を伴う自閉症とアスペルガー症候群、 高機能自閉症を分けて分類していたが、DSM-5 では、自閉症スペクトラム症(ASD)として連続体として 捉えられ一括された。さらに学習障害(LD)と注意欠陥多動症(ADHD)もASDとの併存が認められた。 このように発達障害の観点として、ASD とLD・ADHDを別々のものと考えては危険である。また発達性協 調運動障害も連続性があり重なっていて分けられるものではない。よって治療の観点からすればADHDだけを考えて薬物治療に頼ることをせず、子どもたちの認知の歪みに対する治療教育も重要である。誤っ た認知が修正されないままでいるとひとり暮らしの生活をしたときや社会に出たときなど不適応状態を 来たしやすい。読み書きや読解、作文の困難性への配慮は不可欠である。
  • ASDは、知的障害を伴う自閉症(カナータイプ)から高機能自閉症、そして知的障害を伴わないアス ペルガー症候群も、幅のある連続体であるという概念からスペクトラム症となっている。2 歳までは重 い自閉症だと思った子でも就学までに知能や会話能力が伸びる子もいる。それはASDの診断が否定され たことを意味するものではなく、ASD の中でそのスペクトラムに沿って伸びる子どももいることを理解 する必要がある。

○発達障害と知的障害、精神障害、虐待の連続性
~さまざまな社会的な問題は発達障害に起因している~

  • 発達検査でIQ が低値の場合を知的障害とされるが、知的障害の児が自閉症スペクトラム症(ASD)の特徴を示すことはよく経験する。知的障害は発達障害の一部であり、これを区別すると対応を誤りやすい。大人しくて頑張り屋の知的障害は受動型のASDであり、頑張りすぎると心身症や不登校、暴力、う3つ病や統合失調症など好ましくない状況になりかねない。いじめや不登校、学業不振、不眠やチック、 心身症、場面緘黙、家庭内暴力、依存症、非行、引きこもり、拒食症、自傷、自殺、パニック障害、強 迫性障害、PTSD、うつ病、人格障害、統合失調症、NEET、ホームレス、貧困、生活習慣病、浪費、スト ーカー、DV、虐待、犯罪、詐欺被害、誤認逮捕、売春など、現代社会にみられるありとあらゆるさまざ まな社会問題の背景には発達障害があり、社会の理解と適切な支援がなければ2 次障害の問題が現れて くることを理解する必要がある。 発達障害と精神障害にも連続性がある。発達障害の特徴であるこだわりが、精神障害になると強迫症 状になり、独特なネガティブ思考は抑うつ傾向になる。ファンタジーは幻覚、妄想、考想化声に、ちぐ はぐな応答や話が飛んだり、多弁さは連合弛緩、支離滅裂といった統合失調症と深く関係している。成 人期における精神科疾患は、小児時代の発達障害からの連続体と考える。 虐待も世代間連鎖が言われているが、これも連続体としての発達障害を有する特性(個性派)の連鎖 と言ってもよい。親が衝動的で冷静な判断や相談が苦手なことが多く、その子は、フラッシュバックで 虐待した親を演じることになる。このような行動は、社会的養護で里親に慣れてきた時に、問題行動と して現れやすい。虐待の連鎖は特性の連鎖であり、個性派の親から虐待された子が親になると、育てに くい個性派の子どもが生まれ、その子が親になるとまた育てにくい子どもができやすい。
  • ASDは知的障害や脳性麻痺、てんかん、聴覚障害、視覚障害、ダウン症やプラダ―ウィリ症候群など さまざまな先天性疾患に併存していることも日常診療の中で理解しやすい。 以前は定型発達とも発達障害とも言いがたい領域の児をグレーゾーン(境界域)として分類していた が、最近ではBAP(Broader Autism Phenotype)という幅広い自閉症の表現型であるとし、あまり困り 感を訴えない発達凹凸とも言われている。グレーゾーンという診断を受けた児はBAP=障害としての対 応をすべきで、その支援のあり方は標準タイプの子どもにも良い効果こそあれ、悪影響を与えることは 全くない。発達障害への対応はユニバーサルである。

○発達障害の特性、共通してみられる特徴を理解する

  • 特にASDと標準タイプの対人関係性、コミュニケーションにおいて情報処理の仕方が異なることを理 解する必要がある。ASD の場合は、single focus(単焦点)、mono-track(一車線)で、一つのことに注 目し、周囲に気づかず、同時並行処理ができず行動が遅くなる。一方標準タイプは、情報をフィルター にかけて次々に処理でき、いろいろな解釈ができる。導線は多チャンネルで、同時にいくつもの処理が できる。
  • ASDの学童期以降の共通の特性としては、冗談が分からない、裏の意味が分からず言葉を文字通りに 受け取る、他者の視点に欠け自分の状況を客観的にみることができない、物事の捉え方が異なる、独自 の視点や思い込みがあり、想像力にも偏った問題があるなど、これらが認知の歪みを生じ、自分の特性 が判らない、周りから理解してもらえず、成功体験を積むことができず、人との違いが判らない状況に つながり悪循環に陥ってしまう。
  • 発達障害が示唆される幼児期の気になる症状としては、言語・理解の観点からは、聞こえの心配、言 葉の遅れ、理解の遅れ、吃音や音韻の障害、場面緘黙などがある。行動・習癖の観点からは、かんしゃ く・不眠・夜泣きや多動、登園しぶり、一人遊び、チックなどがある。また運動・操作の観点からは、 運動の遅れ・不器用、つま先歩き・いざりっ子、よく転びやすいなどがある。

○発達障害児の支援

  • 発達障害児は、多数派の定型発達の児とは異なり、とても幼くゆっくり大人になるタイプで凸凹のあ る個性派とみなして支援する必要がある。 4 発達障害は固定した「障害」ではなく、困らなければ「障害」ではなくなる。支援が必要な間は「障 害」であり、自立した個性派を目指すことができるように、親や、関係する大人ができることは、安心 させて、褒めることが最高の意欲付けになりやすい。大人の言葉づかい、表情はとても重要で、子ども との良い関係を作り、毎日穏やかに教えること、話しかけることが基本である。
  • 話しかけの基本はCCQの原則で、近づいて(Close)、穏やかに(Calm)、小声で(Quiet)明確でわか りやすいルール(例えば2 回「やめて」でやめる、人との距離は腕一本ルール、三振バッターアウト、 夕方6 時になったら「こんばんは」など)を作り、指示に従えないような問題行動が起きたら、クール ダウンさせる場所(カームダウンエリア)に移動させ、タイムアウトさせる。

○発達障害の福祉制度

  • 「発達障害」に独自の手帳はなく、手帳があれば障害枠就労が可能となる。発達障害児が利用できる 手帳としては、療育手帳と精神障害者保健福祉手帳の2 種類がある。療育手帳は、B2・B1・A3・A2・A1 の5 段階があり、更新は3~5 年で有効期間が長く、いずれは再判定が不要になる。精神障害者保健福祉 手帳は、高校2~3 年から必要となり、2 年ごとの更新となる。適応疾患は発達障害の他、精神障害、高次脳機能障害(頭部外傷や脳内出血後)がある。
  • 障害基礎年金に関しては、発達障害は精神障害と同じ扱いで不利である。知的障害が主で自活できな い場合は、年金申請は30 歳でも、初診日は0歳の扱いで、5年遡って給付される。年金保険料を納付し ている場合、猶予・減免の手続きをしていないと対象外になる。診断から1 年6 ヶ月後が認定日なので、 遡っての給付はない。但し20歳前に診断があれば、給付不足もセーフで遡り支給も可能なので、障害年 金受給に関しては診断された初診日が非常に大事である。知的障害(またはADHD)が軽度で、20 歳過ぎ て自閉症スペクトラム症(ASD)と診断された場合は、事後、知的障害は重症とされ、ASD 診断から1年6 ヶ月後が認定日で、そこからが障害年金の給付対象となる。

○まとめ~発達障害理解の社会的重要性~

  • 発達障害の数の多さが意味するところは、特別な存在ではないというところで多様性があるというこ とである。また発達障害は周囲からは見えにくい、見えない障害であり、気づかれにくい困難性がある。 育児の悩みや、2次障害としての病気や社会問題と密接に関連している。この発達障害の特性に早く気 づき、2次障害など将来的な生きづらさを理解することが最大の予防医学、予防教育にもつながる。発 達障害への対応はユニバーサルな課題であり、支援の内容は発達障害と気づかれない子や標準タイプの 子にも優しいものになるはずである。

279回 9/21 '16
シンポジウム「筑豊の小児医療を考える〜初期(一次)救急〜」

「勤務医の立場から」 田川市立病院 小児科 部長 菅 尚浩
「家庭医の立場から」 頴田病院 家庭医療センター長 一ノ瀬 英史
「ささえあい診療」 飯塚病院 小児科 部長 岩元 二郎

第278回 7/20 '16(第37回 筑豊感染症懇話会)
「予防接種に関する最近の話題について」宮崎千明(福岡市立心身障がいセンター長)

一般演題:「飯塚病院における最近3年間の小児外科手術の動向中村晶俊(飯塚児外),沖永久美恵(同手術部)

第277回 6/23 '16
「B 型肝炎ワクチンなど小児のワクチンの最近の話題」 大石智洋(川崎医科大学小児科)

一般演題「ロタウイルスワクチンを上手に飲ませるコツを探る」牟田広実(飯塚市立児)

第276回 6/9 '16(第42回 筑豊周産期懇話会)
「北九州市におけるペリネイタルビジット〜包括的なケアと予防接種率向上に向けて〜」吉田雄司(よしだ小児科)

一般演題:「知っておいて欲しい新生児蘇生法」田中祥一郎(飯塚病院児)

第275回 4/14 '16
「産業保健からみたコンビニ診療」 松本悠貴(久留米大学環境医学講座 助教)

一般演題
「特発性と病的先進部による小児腸重積症に関する臨床的比較」向井純平(飯塚病院児)
「市中病院における小児科診療体体制の現状と課題」柳 忠宏(飯塚病院児)

第274回 3/17 '16
「アレルギー内科の診療〜減感作療法と成人食物アレルギーを含めて〜」岸川禮子(国立病院機構 福岡病院アレルギー科医長)

【一般演題】
 「平成27年の飯塚病院小児科診療のまとめ」岩元二郎(飯塚病院小児科)

第273回 2/25 '16
「てんかん症候群と新規抗てんかん薬の選択」安元佐和(福岡大学医学教育推進講座教授/小児科 )

【一般演題】
 「当院における過去5年間の咽後膿瘍の検討」三股佳奈子 先生(飯塚初期研修医
 「ワクチン非含有肺炎球菌による細菌性髄膜炎の1例」豊田真帆(飯塚初期研修医)

○はじめに

  • てんかんに対する抗てんかん薬は、2008 年のラモトリギン(LTG)の登場以来、ガバペンチン(GBP)、トピラマート(TPM)、スチルペントール(STP)、2013 年のレベチラセタム(LEV)と、次々に新規抗てんかん薬が開発され、てんかん治療が大きく様変わりしてきている。これまでの抗てんかん薬はバルプロ酸(VPA)とカルバマゼピン(CBZ)が主流で、初回治療として焦点発作はCBZ かVPA、全般発作はVPA、発作型が不明な時はVPA という基本的なスタンスがあったものの最近では新規抗てんかん薬が単独で初回投与できるようになってきた。

○てんかん症候群の理解

  • 小児のてんかんは年齢依存性が高く、好発年齢があるてんかん症候群として理解することが大事である。乳幼児期は、症候性の全般てんかんとしてウエスト症候群やレンノックス・ガストー症候群、乳児重症ミオクロニーてんかん(ドラベ症候群)があり、脳の器質性病変を伴う症候性の難治性てんかんが特徴である。学童期以降に起こりやすいてんかんとして、中心・側頭部に棘波を示す良性てんかん(BECTS:ベクト、ローランドてんかん)、後頭部に突発波をもつ小児てんかん(パナエトポラス症候群)、小児欠神てんかんなどがある。思春期頃の発症として若年ミオクローヌスてんかん(JME)や覚醒時大発作てんかんなどがある。

○てんかん症候群の分類

  • 特発性(原因不明)と症候性(原因あり)、部分(脳の一部分から発作が始まるタイプ)全般(脳の全体が一気に発作を起こすタイプ)に分けられる。特発性部分てんかんの代表がBECTS とパナエトポラス症候群、特発性全般てんかんの代表的なものが、良性新生児家族性てんかん、良性新生児てんかん、乳児良性ミオクロニーてんかん、小児欠神てんかん、若年欠神てんかん、若年ミオクロニーてんかん、覚醒時大発作てんかんなどがあり、概ね特発性のものは、良性てんかんとして予後は良いものが多い。症候性の部分てんかんは、成人発症に多く、発作が始まる前に何らかの前兆を認めることが多く、脳の発作部位から前頭葉てんかん、側頭葉てんかん、頭頂葉てんかん、後頭葉てんかんなどがある。症候性全般てんかんは、新生児期から乳児期にかけて発病しやすく、発作回数も多く、精神遅滞や神経症状などてんかん性脳症を来すこともある。代表的なものにウエスト症候群やレンノックスガストー症候群、乳児重症ミオクロニーてんかん(ドラベ症候群)などがあり、難治性てんかんが多い。

○代表的な抗てんかん薬

  • バルプロ酸(VPA)は、女性の妊娠中の服用で胎児に対する催奇形性の問題があり、思春期以降は使わないような方向性になっているが、内服量が多くなければ(1 日1,000 ㎎未満)、問題ないとする見解もある。1 日1,500 ㎎以上の高用量の内服では24%に催奇形性の発症率、また子どもの認知やIQ にも影響を与えるという報告もある。レべチラセタム(LEV)は、新規抗てんかん薬として欧米では、発症年齢や発作型にも幅広い適応がある。米国では1 歳以上の部分てんかん、6 歳以上の全身性強直間代発作(GTCS)に、12 歳以上の若年性ミオクロニーてんかん(JME)に適応がとれている。新生児てんかんにも有用性が高いと言われている。ラモトリギン(LTG)は重篤な皮疹(SJS,TEN など)に注意が必要。

○代表的なてんかん症候群

  • 小児欠神発作はVPA、エトサクシミド(ESM)がファーストチョイスだが、若年性ミオクロニーてんかん(JME)に移行例もあり、注意深い経過観察が大事である。CBZ やPHT、GBP で悪化しやすいので注意が必要。JME はVPA が著効するものの、VPA の副作用の問題から海外では、LEV やLTG がファーストチョイスで使われることが多い。断薬や怠薬すると高率で発作が再燃することが多く、思春期以降も長期内服が必要と言われている。ウエスト症候群は、脳波上はヒプスアリスミアが特徴的で、治療はACTH 療法が主体であったが、最近は結節性硬化症によるものではビガバトリン(VGB)が治験で使用されており有用性が証明されている。レンノックス・ガストー症候群は、ウエスト症候群からの移行が多く、点頭てんかんから非定型欠神など種々の発作が起きやすくなる。脳波はslow spike and wave complex が特徴的である。最近ではルフィナビド(RUF)が使用できるようになったものの、蛋白漏出性胃腸症の副作用が報告されている。ドラベ症候群は、かつては乳児重症ミオクローヌスてんかんと言われていたもので、乳児期に発症し、発熱や入浴で発作が起こりやすいのが特徴である。非常に難治のてんかんで、けいれん重積や半身けいれん、ミオクローヌス、非定型欠神などの多彩なけいれんを頻回に反復し、てんかん性脳症を発症し、突然死することもある。Na チャネルの遺伝子変異としてSCN1A 遺伝子変異がドラべ症候群の特徴と言われているが、SCN1A 遺伝子変異=ドラベ症候群でなく、ドラベ以外の病態(熱性けいれん)でもSCN1A遺伝子変異が見つかることもあるので判定の際は注意が必要である。治療はVPA+CLB+STP(スチルペントール、商品名ディアゴット)の3 剤併用療法が主流となり、STP を追加することで重積発作の抑制効果がある。

第272回 1/21 '16「重症喘息の適切な評価と治療」手塚純一郎(福岡市立こども病院 アレルギー・呼吸器科)

一般演題「児童虐待防止拠点病院としての振り返りと今後の展望」岩元二郎(飯塚病院児)


 喘息は、以前は気道過敏性と可逆性の気道狭窄と定義付けられ、発作時の気管支拡張剤により QOL は上がったが喘息死が危惧された。現在の病態は気道の慢性炎症性疾患とされ、ロイコトリエン拮抗剤やステロイド剤により炎症をコントロールする長期管理が主流となり、薬剤の進歩とガイドラインの普及により、喘息は死ぬ病気ではなくなった。全国での小児の喘息死は 2014年はわずかに 6名(成人喘息死は年間 1,547 名)であり、入院患者も激減してきている。しかしながら、小児喘息は最終的には寛解・治癒を目指すものの、全体の 1 割程度はガイドラインに準じた治療を行っても中等症~重症持続型の喘息児は存在する。重症児を見逃さないことであるが、重症例ほど自分に甘く、軽めに見積もってしまうことがある。慢性炎症から気道過敏性やリモデリングを来たさないようにコントロールするためには自覚症状の評価として、小児用の質問表 C-ACT(Asthma Control Test)を用いる方法があり、20点以上はコントロール良好といえるが、客観的な指標で評価することが必要不可欠である。
喘息評価の客観的指標
1.気流制限をみる

  • 肺機能検査としてフローボリュームカーブを用いて測定する。重症な人ほど症状を軽く見積もるため、肺機能検査を行うと正常であるか否かがすぐに判明する。肺機能の予後を予測できる指標である。喘息患者への本検査の施行率は成人では 40%、小児では 15%程度である。

2.気道過敏性の評価

  • 気道収縮物質を吸入投与することにより、気道狭窄反応を計測して気道過敏性の有無をみる検査法で、運動負荷としてエルゴメーターやトレッドミルを使用し、薬物負荷としては、アセチルコリンを利用する方法が一般的である。

3.気道炎症の評価

  • 気道炎症をみる指標としては呼気中の一酸化窒素(以下、NO)測定が有用である(2013年 6月に呼気中の NO 測定が保険適応になった)。簡便かつ非侵襲性に採取可能な評価法として、特に好酸球性炎症によく相関する。喘息そのものの診断の補助になったり、吸入ステロイド薬の治療反応性の予測ができたり、治療効果判定やモニタリングの指標にもなり、アドヒアランスのチェックにもなる。NOが高い(小児では 35ppbより高値の場合)と気道炎症が高いことが示唆される。
  • 吸入ステロイド(ICS)を使うと各指標の改善度にはタイムラグがある。まず最初に改善するのが呼気中の NOで、次に症状、次が気流制限で、最後に気道過敏性が改善していくという順番である。重症例は症状のみによるアンダートリートメントを防ぐためにも、特にこれらの客観的な指標による評価が必要で、長期管理によるきめ細やかな対応が必要である。また NO測定は非発作時に測定する必要があり、発作時に測定すると一見正常値を示すことがあるので注意が必要である。小児にみられるアトピー型喘息は IgE 抗体が関与する好酸球性気道炎症が主体であり、小児喘息児はほとんどが NO は高く、逆に NO が低い時は、本当に喘息かどうかを疑う必要がある。

重症喘息の治療

  • 吸入および経口ステロイドでコントロールできない場合の選択肢が分子標的薬であるオマリズマブ(商品名ゾレア)である。IgEと結合体を作ることで、抗原がマスト細胞に接触できないようにアレルギーを抑制するものである。定期的な注射が必要で、薬価も高い。小児慢性特定疾患の適応があれば医療費の助成が可能である。IgE が高い好酸球性のアトピー型喘息に効果がある。しかしながら、いつになったら止められるのか、どれだけ使えばよいかはコンセンサスがない状態である。本薬剤使用中であ っても客観的指標に基づく喘息の評価と環境整備、アドヒアランスが重要である。実際の患者に投与すると、症状としてはすっかりよくなり、従来の吸入ステロイド治療を怠ることがあり、客観的評価では改善がないことがあるので、必ず症状がよくなっても、ゾレア投与中は客観的評価によるきめ細やかな評価は大事。ゾレアを使用して、喘息だけでなく他のアレルギー疾患もよくなる。最も即効性があるのが鼻アレルギーで、アトピーにも効果があり、IgE依存性のアレルギー疾患は明らかに改善する。

その他:喘息診断治療のポイント

  • 乳児喘息の場合は客観的な指標が使えないことがあるが、診断的治療としておよそ 3 ヶ月程抗喘息薬を投与し、改善があるかどうかを評価する必要がある。百日咳や鼻副鼻腔炎の鑑別が必要だが、乳児喘息のほとんどが気道感染をトリガーにしている。喘息の診断に有力なのが両親やきょうだいの家族歴であり、家族にアレルギー体質があるかどうかの問診は重要である。喘息コントロールがよくなってきたら、薬物療法として最後まで残した方がよい薬剤が吸入ステロイドで、吸入ステロイドを単剤にしてから止めていくのがよい。